胃袋満たし７０年

　潮風薫る港町・いわき市小名浜。チーナン食堂は、この地で７０年にわたり人々の胃袋を満たしてきた。交通手段は決して良くはないが、地元のみならず各地から客がやってくる。どのメニューもボリューム満点。海が近いことから体力勝負の常連客が多く「昼食べたら夜までおなかがすかないように、量にこだわっている」と、国井信子さん（７３）、片根恵子さん（７３）の双子姉妹は笑顔を見せる。

　店は１９５３年、信子さんと恵子さんの両親が創業した。現在は姉の信子さんの娘などの家族らが手伝いをしているアットホームな店で、信子さんはご飯物、恵子さんは麺類の調理を担当している。

　人気メニューは、ラーメンと半チャーハンのセット。ラーメンは鶏と豚ベースのしょうゆ味で、チャーシュー、ネギ、メンマを盛り付ける。タマネギのうまみを生かしたチャーハンは「半」とはいえ大盛り茶わん１杯分のボリュームで、初めて来た客の顔には自然と笑みがこぼれる。

　ラーメンと半チャーハンの調理は姉妹の腕の見せどころ。麺のゆで上がりと、チャーハンを炒める時間を合わせる。「お互い自分のタイミングに合わせろとけんかをしているけれど、姉妹だから言えるんだよね。他人には遠慮しちゃうから結局このコンビが一番」と信子さん。てきぱきとした仕事で「待つのが苦手な常連客」をつかんで離さない。

　姉妹は幼い頃から忙しく働く両親の姿を見て育った。店が落ち着く夕方までは家に帰ることを許されず、漁港周辺が遊び場だった。恵子さんは高校を卒業し、１８歳の時に入店した。「当時は遊びたい盛りで、週末になると旅行や食事に誘われたけど我慢して仕事に汗を流した。それからずっと、この店が私の青春そのものなんだよね」

　そんな姉妹にとって店での客との触れ合いが一番の楽しみ。常連客に子どもができ、さらに孫の姿まで見ると、これ以上ない喜びを感じる。「人が好きなんだよね。本当はもっとおしゃべりしたいんだけど、調理してるとそうもいかなくてね。そこがつらいところ」と姉妹は苦笑いする。

　常連に助けられ

　東日本大震災の津波の被害で店の１階部分が浸水。厨房（ちゅうぼう）機器も流され、姉妹は途方に暮れた。そんな時、「早くチーナン食堂に戻ってきてほしい」と常連客が立ち上がった。船の燃料が混じった泥やごみの撤去、ステンレスの張り替え作業などを手伝ってくれて、約２カ月で営業を再開できた。食材が手に入りにくい中、「チーナンさんこれ食べて。僕は大丈夫だから」と大きな袋に入ったコメを差し入れてくれた若い男性もいた。「こんなにお客さんに恵まれている店はほかにないんじゃないかな。思い返すと涙が出る」と姉妹は目を潤ませる。

　恵子さんのアイデアで両親から受け継いだラーメンの味付けにアレンジを加えたりするなど、自分たちらしさも出せてこれまで以上に情熱と楽しさを感じながら仕事に臨めている。「もういい歳だから、あと何年続けられるか分からないけれど、この味を求めて来てくれるお客さんのためにこれからも頑張るよ」。港町の移ろいを姉妹はこれからも店から見届ける。（木村一幾）

地元のみならず全国各地から客が訪れるチーナン食堂。信子さんと恵子さんの威勢の良いかけ声が店の外まで聞こえてくる

【住所】いわき市小名浜栄町６６の３０

【電話】０２４６・９２・２９４０

【営業時間】午前１１時～午後４時

【定休日】火曜日

【主なメニュー】
▽ラーメン＝７００円
▽ラーメン（半チャーハン付）＝９５０円
▽ラーメン（半カレー付）＝９５０円
▽チャーシューメン＝９５０円
▽かけうどん＝６００円
▽冷そば＝８００円
▽カツ丼＝１０５０円
▽親子丼＝９００円
▽チャーハン＝８５０円
▽カレーライス＝８００円
▽カツカレー＝１０５０円
▽オムライス＝９５０円
▽焼肉（ライス付）＝１３００円
▽野菜肉炒（ライス付）＝１１００円

人気メニューのラーメンと半チャーハンのセット。食べ応え満点のカツ丼は体力勝負の常連客の胃袋を長年満足させてきた

　メークはきちっと

　姉妹はきちっとしたメークが印象的。恵子さんは朝４時に起床、テレビやコーヒーを飲みながら毎朝１時間程度メークに時間をかけているという。「人は中身も大事だけど、女性はまずは見た目。第一印象ってすごく大事だから」と話す。人と接するのが好きだからこそ自分磨きに余念がない。交流サイト（ＳＮＳ）や動画配信サービスなど今どきの話題にも敏感で「この仕事を通して若さと美貌を維持したい」と笑顔を見せる。

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　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。