【まち食堂物語】相模屋食堂・二本松市 独自の視点、ヒット生む

 
2代目の勝さん(中央)、妻としえさん、3代目淳さんの家族3人で地域に愛される「おいしい味」を守り続ける(石井裕貴撮影)

 呉服店から転換

 昭和の大衆食堂の風情を残す二本松市の相模屋食堂は、子どもの守護神として知られる同市小浜の万人子守地蔵尊の近くに店を構える。週末になると、ボリューム満点の名物のカツ丼を求め、市内外からの常連客であふれる。

 創業は1967年。地元の旧岩代町で店を開きたいと、初代の故佐久間孝さんが戦後、神奈川県相模原市での土木作業で資金を稼ぎ帰郷後、58年に呉服店として開業。店名には「土木作業員時代の苦労を忘れないように」とする初代の思いが込められている。

 呉服店は順調だったが、当時はつけ売りの盆暮れ払いが主流。資金繰りに苦労した孝さんは「衣食住、衣の次は食だ」と一念発起。料理が得意だった妻の故トヨさんと共に現在の食堂として再出発。「これまで飲食業の経験はなく、二本松市駅前の食堂でわずか1カ月の修業のみで開業した。父親ながらによくやるなと思った」と2代目の勝さん(67)は振り返る。

 カツ丼は中華風

 当時、近所には自転車工場が開業したばかり。付近に飲食店がなく、従業員が食事に困っていたことから、食堂は開店当初から大繁盛した。中学生だった勝さんもおかもち片手に自転車で出前を手伝う日々が続いた。「あれから55年以上、店は続いているのだから、今思えば初代は好奇心旺盛で目の付けどころが良く、商才にたけた人だった」と笑う。

 カツ丼が看板メニューになったのは、都内で会社員生活を経て28歳で店を任されるようになった勝さんが自分の名前にちなみ、験担ぎの「勝丼」として売り出したのがきっかけ。和風だしではなく、店特製の豚骨、鶏ガラ、野菜で取ったラーメンスープとチャーシューのかえしで煮込んだカツ丼は、独特のコクとパンチの効いた隠し味の黒こしょうがクセになると評判になった。さらに上にのっているのは定番のグリーンピースやミツバではなく、ニラというのも特徴。勝さんは「中華料理のニラ玉をヒントに、しょうゆ味にはニラと卵の方が合うと思った」と開発秘話を明かす。

 値段にもこだわり「1時間働いてカツ丼が食えたらうれしいべ」との思いから、県の最低賃金を参考に今もなお800円のままだ。「豚肉を厚くして高く出せばもうかるが、この厚みとご飯のバランスだからいいんだ」と話す勝さんは試行錯誤して、現在の豚ロース肉135~140グラム、ご飯250グラムの「黄金比」を編み出した。繁忙期は勝さんと妻のとしえさん(63)、次男で3代目の淳さん(36)の家族3人で店を切り盛りしている。

 実は故安倍晋三元首相も名物のカツ丼を食した一人。2012年12月の第2次安倍内閣発足前の衆院選で当時、自民党総裁だった安倍元首相が小浜での街頭演説の前に昼食で立ち寄った。勝さんは「うちのカツ丼をぺろりと平らげ、うまかったと言ってくれた姿が今でも忘れられない」と店内に飾る記念写真を見ながら懐かしむ。

 「地域に育ててもらった店なので、これからも地域に愛される店を目指していきたい」と勝さん。相模屋食堂にしか出せない「いつも変わらずおいしい味」を家族で守り続ける。(飯野大輔)

お店データ 230806syokudou3.jpg昭和の大衆食堂の風情を今に残す相模屋食堂の店構え

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【住所】二本松市小浜字反町10

【電話】 0243・55・2150

【営業時間】
午前11時~午後2時 午後5時~同7時

【定休日】月曜日

【主なメニュー】
▽カツ丼=800円
▽ソースカツ丼=800円
▽焼肉定食=850円
▽肉野菜炒め定食=750円
▽ホルモン定食=750円
▽カレーライス=550円
▽政宗弁当=850円
▽政宗ラーメン(しょうゆ・みそ)=600円
▽うどん (たぬき・月見)=450円
▽そば (たぬき・月見)=450円

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トッピングのニラが特徴の名物カツ丼と目玉焼きがのった政宗ラーメン

 大河ブームに乗る

 名物カツ丼に引けを取らない店オリジナルメニューが政宗弁当と政宗ラーメン。1987年のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」ブームを受け、かつて地元小浜城に居城した伊達政宗にあやかり開発した。政宗の隻眼をイメージした目玉焼きをソースカツ丼にのせたのが政宗弁当、ラーメンにのせたのが政宗ラーメン。ラーメンはみそラーメンにもできる。勝さんによると「今でも好評で結構出るんだよ」とのこと。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。