【まち食堂物語】だいまる・川俣町 胃袋つかみ続けて50年

 
真心のこもった手作り料理で客の心と胃袋をつかんできた祐八さん(右)と町子さん。祐八さんは「だいまるを支えてくれる全ての人への恩返しの気持ちを持ってお店を続けていきたい」とほほ笑む(吉田義広撮影)

 川俣シャモ柱に

 ぷりっぷりの食感のブランド地鶏「川俣シャモ」をふんだんに使った黄金色の親子丼に、うまみの強い川俣シャモの鶏ガラスープで仕上げる「シャモラーメン」、肉汁あふれる手作りギョーザ―。川俣町の中心部にたたずむ「お食事処だいまる」は、今日もお目当ての料理を求める客で活気づく。多くの客の胃袋をつかみ続けて50年。「地域に愛される料理を提供したい」。長い歴史を支えてきたのは店主の佐藤祐八さん(68)、妻の町子さん(71)をはじめ、従業員らの料理人としての使命感だ。

 だいまるの始まりは1973年にさかのぼる。現在の店舗から約150メートル離れた場所に構えていた「大丸食肉店」。祐八さんの父で、34年前に亡くなった政男さん=享年(62)=が同年に創業し、コロッケやメンチカツ、ハムカツなどを販売。6年後には食肉店の隣に「御食事大丸」がオープン。これが、だいまるの原点だ。「当時はぜいたくできるような時代じゃなかったね」と祐八さん。「食べて大きく丸々となるように」との願いが込められたのが店名の由来だという。

 町は古くから「絹の里」として養蚕や機織り業で栄えた。20、30代の頃の祐八さん、町子さんは養蚕農家を訪問し総菜を売る行商に奔走。祐八さんは「コンビニなどがまだない時代。行商の売れ行きは好調で、食堂の手作り弁当の注文も多く、店は軌道に乗っていた」と振り返る。営業を続けること25年。駐車場付きの好立地な土地が見つかり、現在の場所に店舗を移転した。

 だいまるは祐八さんと町子さん、パートら計7人で切り盛りする。だいまるの売りが店主の妥協を許さないメニューの数々。その数約70。「注文が殺到すると調理が大変。親子丼は5秒でも油断すると、卵の半熟加減が理想通りにいかない。とにかくメニューが多過ぎるんだよね」と笑う。出かける時は外食が基本で、他店の料理や店構え、サービスを研究し、自分の店づくりに役立てるなど向上心は尽きない。祐八さんは「自分で納得のいく味を提供したい。常に勉強だね」と力を込める。

 地域に恩返しを

 祐八さんと町子さんにとって忘れられない出来事がある。2011年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故。当時、浜通りから多くの避難者が町の避難所に身を寄せていた。だいまるは公民館で店の食材を使ったラーメンを約30食振る舞った。着の身着のまま過酷な状況で避難を強いられた避難者らが涙を流しながらラーメンを食べていた姿が印象に残る。祐八さんは「自分たちは多くの人にとって大切な『食』を日々提供していたんだと改めて気付かされた」と振り返る。

 「だいまるをここまでつないでこられたのは、父や母、妻、パートの皆さん、だいまるを愛してくれているお客さんの存在なしではあり得なかった」と祐八さん。「体が続く限り、恩返しの気持ちを持って厨房(ちゅうぼう)に立ち続けたい」と意気込む祐八さんに、町子さんが「言っても無理するかもしれないけれど、体は大事にね」とそっと言葉をかけた。だいまるは、次の節目に向けて新たな歴史のページを刻み始めている。(福田正義)

お店データ

231008syokudo2.jpg創業50年を迎えたお食事処だいまる。店名には「食べて大きく丸々となるように」との願いが込められているという

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【住所】川俣町鶴沢字油田3の3

【電話】024・565・2660

【営業時間】午前11時~午後2時45分、午後5時~同7時45分

【定休日】第2、4日曜日

【休養日】月2回(木曜日)

【主なメニュー】
▽シャモセット(ミニシャモ丼、シャモラーメン)=1280円
▽シャモ親子丼=1080円(ミニタイプ760円)
▽シャモ塩タンメン=830円
▽シャモ醤油ラーメン=780円
▽シャモチャーシューメン=1100円
▽ワンタンメン=750円
▽みそタンメン=720円
▽カレーラーメン=720円
▽ミックスセット(ラーメン、ギョーザ、半チャーハンまたは半カレー)=1000円
▽手作りギョーザ=320円
▽大丸定食(から揚げ、エビフライ、コロッケ)=970円
▽スタミナ定食=1080円
▽ホルモン定食=970円
▽鳥からあげ定食=970円
▽肉うどん=600円
▽肉そば=600円

231008syokudo3.jpg(手前左から時計回りに)店自慢のシャモ親子丼、シャモ醤油ラーメン、大丸定食。手作りギョーザも人気を集める一品だ

 「日替わり」休止中

 だいまるの目玉の一つが曜日ごとに特定のメニューが割引で味わえる「日替わりサービス」だ。例えば月曜日は「ギョーザデー」、火曜日は「ラーメンデー」、金曜日はしゃれを効かせて「フライデー」。現在は、昨今の原材料価格などの高騰を受けて9月から販売を休止している。祐八さんは「日替わりサービスを待ってくれているお客さんのためにも、早く経済状況が落ち着くことを願って、販売を再開させたい」と話す。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。