【まち食堂物語】めざせ!!そばや・いわき市 試行錯誤、海鮮丼への道

 
「移転も考えたが、この場所で続けて良かった」と店の前に立つ宇野さん。午前11時から午後9時までの通し営業で、「常磐もの」などを求める客がのれんをくぐる(吉田義広撮影)

 インパクト重視

 いわき市の小名浜港近くでは、その土地柄に合った海鮮料理を提供する店がひしめき合い、舌の肥えた常連客や観光客がのれんをくぐる。2階建ての飲食ビル1階に店を構える「めざせ!!そばや」は、そんな海鮮料理の激戦地で下克上を成し遂げた。

 一番人気は本県沖で取れた新鮮な「常磐もの」を使った海鮮丼。厚切りのカンパチやアカガイ、ホタテ、マグロに加え、色鮮やかなイクラや大きな甘エビがどんぶりをぜいたくに覆う。定食メニューも充実し、客の目と胃袋を満足させる。店主の宇野長秀さん(50)やパート従業員ら5人で店を切り盛りし、連日盛況だ。午前11時にのれんを出すと、午後9時までの通し営業。スーツや作業着姿の男性客のほか、観光でいわきを訪れた女性客の姿も目に付く。順風満帆に見えるが、開店してからしばらくは暗礁に乗り上げる日々が続いた。

 小名浜出身の宇野さんは22歳で結婚するまで飲食関係のサービス業に従事していたが、安定した仕事を求めてサラリーマンに転身。3人の子宝にも恵まれた。市内で段ボールの配送や営業の仕事に汗を流す日々が続く中、「やはりサービス業が自分には向いている」と26歳の時に脱サラ。現在の店舗近くにあった立ち食いそば店の経営を持ちかけられ、飲食店経営者としての一歩を踏み出した。

 ほどなく現在の場所に店を移すことを決め、インパクトのある店名にしようと思案し「めざせ!!そばや」と名付けた。開店は2000年1月9日。雪がほとんど降らない小名浜が大雪に見舞われた日だった。温かいそばを求めて来店する客を見込んだが、閑古鳥が鳴いた。それからも客足は伸び悩み、頭を抱えた。

 自慢の味に5年

 開店から3カ月がたったころ、宇野さんは一緒に店で働く母まち子さん(77)から「ここで閉める(覚悟をする)のも男だぞ」と促されたが、「3カ月で店を閉めるのは恥だ」と、何とか店を続ける道を探った。そんな時、ある客から「どうして港の近くなのに刺し身がないのか。小名浜にそばを食べに来ているわけじゃない」と言われたことを契機に乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負に出た。

 ゴールデンウイーク期間に合わせ、海鮮丼をメニューに追加した。独自で酢飯の酢の配合を考え、鮮度の良い魚を盛りつけた自信作だったが、客からは「これは海鮮丼じゃない」と食べかけの皿を返された。至らない点が多かったことを反省しながら板前を雇うことを決め、刺し身の切り方を目で盗み、さまざまな海鮮丼の人気店を食べ歩き、盛りつけを学んだ。中学校卒業以来、連絡を取っていなかったすし店で働く同級生には頭を下げ、酢飯の作り方を教わった。自分の納得のいく海鮮丼の味が完成するまで5年ほどかかった。

mezase-sobaya2おいしさを求めて試行錯誤を重ねて完成した自慢の海鮮丼などを振る舞う宇野さん

 11年3月に起きた東日本大震災の津波の影響で店は壊滅状態になったが、従業員らの協力で約1年後に店を再開した。「移転も考えたが、この場所で店を続けて良かった。震災前の常連客が再開後に食べに来てくれたことが本当にうれしかった」と宇野さん。水平線が見渡せる店で、これからも自慢の海鮮料理を振る舞う。(木村一幾)

お店データ

mezasesobaya-chizu

【住所】いわき市小名浜字栄町3の1

【電話】0246・92・1919

【営業時間】午前11時~午後9時
(ラストオーダー同8時30分) 

【定休日】火曜日(祝日の場合は営業)

【主なメニュー】
▽海鮮丼=2200円
▽うにいくら丼=3300円
▽サーモンいくら丼=1980円
▽ネギトロ丼=1210円
▽あじなめろう丼=1430円
▽刺身定食=2420円
▽銀むつ煮魚定食=2640円
▽巨大エビフライ定食=2640円
▽とろサバ定食=1430円
▽目光唐揚げ定食=1650円
▽かけそば=605円
▽かけうどん=605円

mezase-sobaya3店の一番人気の海鮮丼。厚切りのカンパチやアカガイ、ホタテ、マグロに加え、色鮮やかなイクラや大きな甘エビなどの「常磐もの」がぜいたくにどんぶりを覆う

 麺類はシンプルに

 店のメニュー表には月見うどんや海老(えび)天そばなどのメニューもある。店名が「そばや」なだけに味への期待が膨らむが、宇野さんは「そばやうどんには自信がないから期待されても困っちゃう」と苦笑い。

 立ち食いそば店で学んだレシピのため、客に提供するまでの時間やシンプルな味付けを特長としているという。「そばやうどんは一つも注文がない日もある。自信のある海鮮料理を食べに来てほしい」と促す。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。