ご飯進む味付け

　行き交うドライバーたちのロードオアシス―。「バイドラ」の愛称で親しまれる二本松市の「二本松バイパスドライブイン」は、国道４号沿いに２４時間営業で店を構える。メニューは多く迷ってしまうくらいで、値段はリーズナブル。昭和レトロの店内は連日、食事時に満席になる。

　創業は高度経済成長期の１９７２年７月。国道４号バイパスの開通を見据え「食べ物商売なら食いっぱぐれることはないだろう」と、精米業などを営んでいた初代の故橋本正一（まさかず）さんが当時、まだ山林だった店舗周辺の土地をいち早く取得し、開業した。店の前の道路はまだ片側１車線で付近にはコンビニもなく、２４時間営業が珍しかった時代。開店当初から店はトラック運転手らで大繁盛した。

　正一さんの次男の故正次（まさじ）さんと一緒に店を切り盛りしていた、妻で女将（おかみ）の宏子さん（８１）は「寝る間もないほど忙しく、家にも帰れず午前中に店の２階で３時間ほど仮眠を取る生活が続いた」と振り返る。夜間の従業員確保にも苦労した。農家の主婦らにアルバイトの募集をかけるも、当時は運転免許やマイカーを持っている女性はまだ少なく、正次さんが従業員の送迎まで担当した。

　オープン時からほぼ変わらないメニューは麺類や定食、カツカレー、チャーハンなど７０種類以上とバラエティーに富んでいる。いずれもボリューム満点で、注文はレジであらかじめ支払いを済ませるシステムで、定食のご飯とみそ汁はおかわり自由。棚から自由に取る冷ややっこや塩辛などの充実した一品料理もうれしい。

　不動の人気メニューはバイパススタミナ定食。創業時の料理長が「店の目玉メニューを作ろう」と開発した。赤みそとショウガ、ニンニク、酒、しょうゆなどを秘伝の調合で仕込んだタレで、ホルモンと豚肉と野菜を炒めた、ご飯が進む濃いめの味付けが売りだ。現料理長の東城利之さん（７０）は「月に約８００食も注文が入るので、ずんどう鍋いっぱいに作るタレも毎週仕込み作業に追われている。もう何十年もこれしか食べない常連客もいる」と笑う。

　風呂とサウナも

　テーブルや座敷を合わせて約１００席ある広い店内にはゲームコーナーのほか、風呂とサウナもある。利用料は風呂が５００円、サウナが９００円。今なお風呂上がりに食事を楽しみ、駐車場で仮眠を取って目的地に向かう長距離ドライバーたちも多い。

　震災や原発事故後しばらくは、復興資機材を積む運送業者や除染作業員で店内はあふれた。盆と正月には、二本松市に避難した浪江町民らが「狭い仮設住宅では全員で食事が取れないから」と、避難先から集まった大家族が食事を囲む姿も多く見られるなど、店は国道４号とともに人と人をつないできた。

　「主人は４年前に亡くなってしまったけれど、店を愛し楽しみにしてくれるお客さんも大勢いる。私の体が続く限り店を続け、将来は孫が店を継いでくれたらうれしい」と話す宏子さん。創業から半世紀を迎え、これからもおいしい食事と笑顔でドライバーたちに憩いのひとときを与え続ける。（飯野大輔）

昭和レトロの風情を残し「バイドラ」の愛称で親しまれる二本松バイパスドライブインの店構え

【住所】二本松市杉田駄子内４７

【電話】０２４３・２３・３５１９

【営業時間】
２４時間（月曜日午前０時～同１０時は閉店）

【主なメニュー】
▽煮込みホルモン定食＝７９０円
▽バイパススタミナ定食＝７９０円
▽野菜炒め定食＝７９０円
▽若鶏唐揚げ定食＝９５０円
▽生姜焼き定食＝９５０円
▽チキンカツ定食＝９００円
▽カツカレー＝９３０円
▽チャーハン（スープ付き）＝６６０円
▽タンメン＝６４０円
▽ラーメン＝５２０円

看板メニューのバイパススタミナ定食（手前）と、ボリューム満点と評判のカツカレー

　映画ロケやラジオ

　店はかつて、俳優の故菅原文太さん主演の映画「トラック野郎」のロケ地になったほか、人気ラジオ番組「歌うヘッドライト」の中継も行われたこともある、いわば長距離トラック運転手たちの聖地としても知られている。宏子さんは「映画ロケの時は撮影用に約３０台のトラックが駐車場に集結し、とてもにぎやかだった。ラジオ中継の後はドライバーの皆さんからたくさん反響をいただいた」と当時を振り返る。

　ＮＨＫラジオ第１「ふくどん！」で毎週木曜に連携企画

　まち食堂物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『ふくどん！』（休止の場合あり）のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。