【模擬調停】お互い歩み寄り、解決策話し合う

 
元ヘルパー役になり、裁判官や調停委員に相談する記者(左)

 「模擬調停に参加してみませんか」。取材先の一つの福島地裁から声がかかった。調停は生活のトラブルなどを裁判官らが加わり、話し合いで解決を図る制度だが、非公開で行われているため、詳細な内容が分からず、裁判との違いも判然としない。理解を深めるため、挑戦することにした。(報道部・安達加琳記者)

 記者が向かったのは、模擬調停が行われる福島地裁。世話をしていた男性に貸した30万円を返してもらう元ヘルパー役が割り振られた。まずは支払いを求める金額などを書く申立書を記入。見本を見ながら10分もかからず書き終えた。費用は請求額によって違うが、今回は2100円。思っていたより手軽な価格だ。

 会場の会議室では机を挟んで男性役と向き合い、両者の間に福島簡裁の阿部政志裁判官と調停委員の青山民子さん、渡辺恵一さんが座った。解決策を提案してくれる3人だ。「裁判と違い、勝ち負けを決める制度ではありません。どうぞ、遠慮なく率直に話してください」。阿部裁判官の優しい語りかけに、自然と肩の力が抜ける。法律用語が飛び交う裁判と違い、記者の言い分を「うんうん」とうなずきながら聞いてくれる青山さん。渡辺さんも緊張を和らげるような言葉遣いでじっくりと聞いてくれる。

 話し合いを進めること約20分。「世話になった恩に報いる意味も込めて支払いを考えられなくはないですが...」と男性の気持ちが変化し、調停委員の提案などを経て分割での支払いが決まった。円満に調停成立だ。

 福島地裁によると、調停の8割は3回以内で終わるという。期間は3カ月程度。合意が成立した場合は判決と同じ強制力が得られる。もちろん、秘密厳守だ。

 「気軽に相談を」

 「最良の解決案を提示してくれたと思ってもらえるような関係を築きたい」。阿部裁判官たちが思いを明かしてくれた。お互いが歩み寄り、解決することが調停の良さ。当事者と信頼を築き、「結論を早く出したい」などの要望に合わせた調整を心がけているという。「もめ事は放っておくと糸のように絡み合ってほぐすのが大変」と阿部裁判官。「思い立ったら気軽に利用してほしい」と3人は口をそろえた。

 会社内のパワハラや交流サイト(SNS)を巡るトラブルなど、時代の変化に応じた相談も寄せられるという。裁判所というハードルの高さから利用を思い付いたことはなかったが、身近な相談を中立の立場で聞いてくれる人の存在が、心強く感じた。

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 調停制度 法律のみにとらわれず、当事者間の話し合いによって問題の解決を図る裁判所の手続き。金銭の貸し借りなどの民事トラブルを扱う民事調停と、離婚や相続などの家庭トラブルを扱う家事調停がある。民事調停は簡裁、家事調停は家裁で扱う。裁判官1人と、一般市民の中から選ばれた専門知識や深い経験を持つ調停委員2人で調停を進める。10月に発足100周年を迎えた。

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