生物体内で有機物と結合

 

 トリチウムから出る放射線のエネルギーは紙一枚で遮ることができるくらい小さいです。そのため、トリチウムによる身体への影響は、概して小さくなります。しかし、トリチウムが出す放射線のエネルギーが小さいことは、トリチウムを計測する際のハードルとなります。計測したいものの外に、放射線が簡単に出てこないからです。

 トリチウムは水素の仲間なので、その多くが水として存在しています。生物の体内でも同様です。水として存在するトリチウムを計測するには、ほかの放射性物質や不純物を取り除くため、蒸留をします。さらに、その蒸留水に、トリチウムからの放射線(ベータ線)が当たると光る薬品を加えて、その後その光り具合を計測する、という工程が必要となります。

 その一方、生物の体内で、トリチウムの一部は、水ではなく、有機物(タンパク質や脂肪、炭水化物など)と結合する形でも存在します。私たち生物は、炭素を中心に酸素や窒素、水素などでつくられる有機物でつくられています。その水素の一部がトリチウムに入れ替わった形で、生物の中に存在するのです。

 そのようなトリチウムの計測はさらに難しくなります。一度それらの有機物を乾燥して、燃やして、二酸化炭素と水に変え、その水蒸気を冷やして集めて、そこに含まれるトリチウムを計測するという方法になります。

 できるだけ早く計測できるような技術開発が行われていますが、少なくとも10分や20分で計測できるものではないのが現状です。