「除染基準」議論が再燃 空間線量・毎時0.23マイクロシーベルト

 

 東京電力福島第1原発事故後に政府が除染の長期目標とした被ばく線量を、一定条件で空間放射線量に換算した「毎時0.23マイクロシーベルト」に再び注目が集まっている。更田(ふけた)豊志原子力規制委員長が「実態と合わない」と発言したのを受け、国の放射線審議会が数値の妥当性を審議することが決まったためだ。県内各市町村が除染を行う際にも基準とし、設定された直後からさまざまな議論を巻き起こしてきたこの数値について識者などに話を聞いた。

 実態と乖離を指摘 「目標値」で浸透

 空間放射線量毎時0.23マイクロシーベルトは原発事故後、除染する地域を政府が指定する際の基準として使われたが、実態との乖離(かいり)が指摘されてきた。

 政府が除染の目的として掲げたのは長期的に年間追加被ばく線量を1ミリシーベルト以下に下げること。この「年間1ミリシーベルト」から1日のうち屋外で8時間、木造家屋内で16時間過ごすと仮定して算出した1時間ごとの空間線量の推計値が「毎時0.23マイクロシーベルト」。県内では毎時0.23マイクロシーベルトを除染計画で活用した市町村もあり、「除染の目標値」として浸透した。

 しかし毎時0.23マイクロシーベルトの倍程度に空間線量が高い場所に住んでも、実測値が年間1ミリシーベルト程度にとどまることが伊達市の調査で判明。除染の基準を明確化してほしいとの声が高まり、環境省は2014(平成26)年、要望があった福島、郡山、相馬、伊達4市との意見交換会を開いた。

 意見交換会で同省は毎時0.23マイクロシーベルトを除染目標ではないと説明。空間線量から個人被ばく線量に基づいた除染に転換する新方針を示したが、4市は現行の除染計画を変更しないことで一致した。

 同省は市町村が毎時0.23マイクロシーベルトを活用した背景について「個人の被ばく線量と空間線量が単純に(1対1に)対応するかのような印象を与えてしまった。これを訂正するような説明や周知が不足してきた」とした。

 郡山市「国の動向注視」 除染作業終了

 郡山市内では昨年までに住宅や道路などの除染作業を終えた。市が調査した市内772区画の放射線量の平均値は大半で毎時0.23マイクロシーベルト未満となった。

 調査は、昨年10月~今年1月に各区画の平均値を測定。765区画で同0.23マイクロシーベルト未満、市の中心部と北部の一部の7区画で同0.23~0.29マイクロシーベルトとなった。市原子力災害総合対策課は、同0.23マイクロシーベルトを超える環境でも個人の生活パターンによって異なり、現状で年間1ミリシーベルトに達する地域はないとして「原子力規制庁などの動向を注視していく」としている。

 除染の基準となる線量の見直しを巡り、市民の反応はさまざまだ。同市の高橋久さん(78)は「知識が乏しかった原発事故当時は線量が心配だった。だが海外では、福島より高い線量の地域もあり、基準の見直しも気にならない」と語る。一方、自営業今泉英史さん(31)は根強く残る風評の影響を踏まえ「風評払拭(ふっしょく)のためには基準をもっと下げてもいいのではないか」と指摘する。