【建物語】会津若松市役所本庁舎・会津若松市 今までもこれからも

 
築84年の会津若松市役所本庁舎。古代ローマの建築様式「コリント式」を採用した建物は、歴史の街の中心施設として市民に親しまれている

 飲食店や商店が並ぶ会津若松市の中心部に、存在感のある洋風の建物がある。1937(昭和12)年に完成した会津若松市役所本庁舎だ。

市章がモチーフ

 石割の壁面には細やかな装飾が施されていて、しばらく眺めていても飽きない。どこかで見たことがあるような気になるのは、古代ローマやギリシャを描いた映画で見た建物に似ているからだろう。

 アーチ形の正面玄関から中に入ると、まず上り階段にある大きなステンドグラスが目に入る。ステンドグラスの模様は「會」の字をデザインした市章をモチーフにしている。「市章をかたどったステンドグラスは、全国的にも珍しいんですよ」。市総務課の栗城豊さん(52)が案内してくれた。

 ステンドグラスのそばには、本庁舎とステンドグラスの紹介文が書かれたパネルがある。パネルによると、本庁舎は建設当時としては珍しい鉄筋コンクリート造り3階建て。装飾柱にはアカンサスの葉飾りと渦巻き模様がある。古代ローマの建築様式の一つ「コリント式」を模したと書かれている。

 ステンドグラスの作者は記録が残っておらず、長らく不明だったが、7年ほど前に県外の研究家からメールがあり、磐梯町出身の大田広喜の作品だと分かった。大田は明治から昭和のステンドグラス創成期を支え、インテリアデザイナーとして活躍した。新宿ほてい屋(現伊勢丹)の内装も手掛けたとも伝えられている。大田は本庁舎落成の翌年、歩兵第29連隊(若松連隊)に入隊し、日中戦争で戦死。これが遺作になったという。

 3階にある議場も建設当時の姿を残す場所の一つだ。ゼンマイ式の柱時計は今も議会開会前に職員がはしごを使いゼンマイを巻いて動かしている。普段の取材で座る傍聴席とは反対側の入り口から入ると、壁面にさまざまな模様の装飾が施されているのに気付いた。

 4列ある議員席の机のうちの1列に色の付いた絵が描かれているのも、傍聴席からは分からなかった新しい発見だ。「市の花タチアオイ、市の木アカマツ、市の鳥カッコウをあしらったものです」と栗城さん。いつもここを訪れると厳かな雰囲気に背筋が伸びる。それは記者ばかりではない。清川雅史市議会議長(60)=4期=は「初めて議場に立った時は、荘厳さに身の引き締まる思いだった」と振り返る。

趣ある姿を継承

 本庁舎に愛着を持つ市民は多い。正面玄関近くでは時折、スマートフォンで建物を撮影する人の姿を目にする。同市の伊藤陽子さん(63)もその一人。「母が子どもの頃からあった建物。近代的ではないかもしれないけど趣があり、市民にとっては誇りだ」

 長年親しまれてきた本庁舎も利便性向上などのため、2025年度までに同じ場所に建て替えることが決まっている。新庁舎では、「歴史的価値が高い」として正面玄関側の外観を継承し、ステンドグラスのある階段や、議場などを保存することになっている。

 本庁舎はこれまでも、建設当時の姿をできるだけ残そうとする職員の努力によって受け継がれてきた。3階階段付近のアーチには、1カ所だけ白く新しい部分がある。最低限の修繕にとどめようとした当時の職員らの工夫や苦労が伝わる。愛着を持つ人がいる限り、建て替え後の新庁舎も「歴史の街」のシンボルの一つとして受け継がれていくに違いない。(高崎慎也)

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 会津若松市役所本庁舎 延べ床面積は、議場がある旧館が2450平方メートル、隣接する築63年の新館が1621平方メートル。1928(昭和3)年、昭和天皇の即位記念事業として建設が議決されたが、財政難で着工は8年後になった。完成から10年後に昭和天皇が庁舎を訪れ、特産品を見学されたとの記録が残る。住所は会津若松市東栄町3の46。問い合わせは市役所(電話0242・39・1111)へ。

会津若松市役所本庁舎

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。