【誉れ高く】ふるさと創生賞・西芳照さん 代表、食からアシスト

 
W杯カタール大会で森保一監督(右)と記念撮影する西さん。男子代表トップチームへの同行を引退する決意で臨んだ=2022年12月(西さんのツイッターから)

 第33回みんゆう県民大賞に選ばれた芸術文化賞の漫画家ややまひろしさん(89)、スポーツ賞の駒沢大陸上競技部総監督大八木弘明さん(64)、ふるさと創生賞のサッカーW杯日本代表同行シェフ西芳照さん(61)。各分野で大きな功績を残し、地域振興などに貢献してきた活動を3回にわたって紹介する。

 勝負メシに県産食材

 世界最大級のスポーツ大会、サッカーのワールドカップ(W杯)。2006年のドイツ大会から5大会連続で日本代表の専属シェフとして同行した西芳照さん(61)=広野町=は、常に選手に寄り添いながら栄養バランスを考え、日の丸を背負って戦う選手たちを食でサポートしてきた。

 料理に興味を持ったのは高校卒業後だった。大学進学を逃し、友人に誘われて居酒屋でアルバイトを始めた。ホールの配膳係として働くうちに料理の魅力にひかれ、料理人になる決意を固めた。修業を経て料理人の道を踏み出すと、客を喜ばせることを大切にしてきた。「料理の値段はさまざまだが、関係なく喜んでもらうためにおいしい料理を仕上げてきた」と振り返る。

 東京から帰郷し、サッカーのナショナルトレーニング施設Jヴィレッジのレストランで1999年に総料理長に就いた。転機となったのは、アラブ首長国連邦(UAE)で2004年に行われたアテネ五輪のアジア最終予選だ。U―23(23歳以下)日本代表の選手が体調を崩したことなどから衛生管理を担う同行者が必要だとして、白羽の矢が立ったのが西さんだった。

 日本代表の専属シェフになると、環境が異なる遠征先でも代表選手が実力を発揮できるよう、その土地の気候風土に合わせた食事を準備。チームが宿泊するホテルのシェフの協力も得て代表選手が食べる直前に出せるよう計算してメニューを作り、温かい料理を提供することを心がけた。

 遠征先には必ず県産食材を持ち込んだ。中東では初開催だった昨年のカタール大会では、県産サンマを使ったつみれ汁などを振る舞い、選手に喜ばれた。「本県のためにできることをやって、県民の皆さんに元気を与えたい」と古里への思いも胸に腕を振るった。

 心に残る大会に挙げたのは、やはりカタール大会だ。「年齢的に最後という選手がいる中、自分だけ『次がある』と思っていていいのか。みんなと同じ気持ちで臨みたかった」。男子代表トップチームに同行するのは、今大会が最後―。引退を決断し、強い思いでカタールに乗り込んだ。

 イスラム圏の現地では豚肉を調達できないため、疲労回復に効果のあるウナギを代用するなど、豊富な経験を総動員した。チームは強豪ドイツやスペインを撃破して16強に入った。「16強の壁を越えられなかったが、選手の姿にまた元気をもらった」と感謝した。

 5大会を振り返り「選手のことを考え、ここまで続けてきた。自分も大会を終えるごとに、選手たちと共に成長してきた」と胸を張る。今後も男子の年代別代表や女子代表には同行する予定で、選手たちを支えながら食で本県の魅力を発信し続けていくつもりだ。

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 にし・よしてる 南相馬市出身。原町高卒。東京都の懐石料理店で修業後、料理長を務めた。1997年からJヴィレッジのレストランに勤務。2006年のW杯ドイツ大会から5大会連続で日本代表に専属シェフとして同行した。広野町などでレストランを経営する。