高齢者の負担「切実」 "生活激変"たまる心理的なストレス

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で避難生活を余儀なくされている住民が向き合う切実な問題の一つに介護が挙げられる。特に原発事故で避難区域などがある双葉郡8町村と飯舘村は介護保険料、要介護認定者数ともに伸びが顕著だ。避難から2年半が過ぎようとする中、生活環境の激変や将来が見通せないことから心理的なストレスが増え、高齢者を中心に体調を崩したり、もともと抱えていた症状を悪化させたりする例も少なくない。各町村は介護予防の取り組みに知恵を絞るが、即効性のある対策は難しく、住民や行政に介護の負担が重くのしかかっている。

 【背景】"家族との分散"影響 

 介護保険料や要介護認定者数の増加の背景に挙げられる「震災による生活環境の変化」には根深い問題がある。

 各町村が大きな要因として指摘するのは、若い世代と高齢者世代が別々に暮らす「分散避難」だ。高齢者は仮設住宅に暮らし、若い世代はプライバシーが保てる借り上げ住宅に住むため、家族で介護ができる状況にないという。

 飯舘村の担当者は「子ども世代が一緒に暮らさなくなった世帯が多くなり、高齢者が要介護認定を求めるようになった」と話す。別の町では、仮設住宅で高齢者が1人暮らしになったため介護サービスを利用するようになった人もいるという。

 各町村で共通しているのは、避難先で農作業などの仕事や運動の機会が減ったことによる体調の悪化だ。

 大熊町の担当者は、災害を機に家に閉じこもりがちになったり、運動量が減ったりすることで病を引き起こす「生活不活発病」を不安視する。

 震災前は畑仕事や茶飲み友達と集まって話をすることでストレス解消になっていた。畑で農作物を収穫し、食べてもらうことは生きがいにもつながっていたとする。しかし、仮設住宅や借り上げ住宅の暮らしで生活習慣は大きく変化し、畑もなく、友達も散り散りになってしまった。

 また、生活環境も大きく、自家用車の運転ができなければ、会津若松市に避難している場合、日常の主な移動手段は路線バスかタクシーになる。大熊町には路線バスがないため、慣れない交通手段が外出の機会を減らしてしまうこともあるという。

 体力の低下だけでなく、慣れない避難先で、閉じこもりがちになった高齢者を中心に認知症の傾向が増えていることも各町村の担当者は懸念している。

 【予防】「即効策」難しく 

 各町村は、要介護者を増やさないため予防事業に重点を置いている。住民の健康状態に変化が見られるのは、飯舘村だ。昨春から仮設住宅などで住民を対象に健康体操を行う機会をつくっており、住民の健康に改善傾向が表れているという。

 川内村は、高齢者が多く暮らす郡山市の仮設住宅や村内で膝痛や腰痛の防止教室や認知症患者を地域で見守る認知症サポーターの養成講座を開くなど、介護予防対策に取り組んでいる。楢葉町は仮設住宅の集会所やサポートセンターなどで、体や頭を使う予防教室や運動教室を開いている。浪江町は8月から、役場機能を置く二本松市で認知症サポーター養成講座を開き、町民全員に認知症に対する理解を深めてもらい、認知症患者や家族を町民自らが支援したり、対策を学んだりすることで予防しようという取り組みをスタートさせた。

 ただ、課題もある。飯舘村の担当者は「高齢者だけの世帯になれば不安になり、介護認定を求める動きになる。直接的に要介護者を増やさない対策を講ずるのは難しい」、葛尾村も介護予防対策を講じてはいるが、「認知症予防などには新たな趣味を見つけるなど、自分で考えて行動することが大切。行政が主導して抜本的な対策を図るのは容易ではない」としている。

 【要介護認定者数】増加最多は浪江町 長期化の影響を裏付け 

 双葉郡8町村と飯舘村の要介護認定者(65歳以上の第1号被保険者)数は、震災前の2011(平成23)年1月から全町村で毎年増加しており、避難生活の長期化や生活環境の変化が介護に影響を与えている現実を数字が裏付けている。

 震災前の11年と震災後の13年の比較で認定者数が最も増えたのは、浪江町で407人増。次いで、富岡町213人増、大熊町197人増、飯舘村148人増の順。

 増加率が高かったのは、大熊町56.7%、葛尾村55.5%、浪江町47.1%、飯舘村44.7%。

 【介護保険料】最高額は大熊、浪江 

 9町村の2012(平成24)〜14年度の介護保険料は09〜11年度と比べ、1.3〜2倍近く上がっており、県平均の4703円を上回っている。増加率が高かったのは広野町の97.7%で、前期比2395円増の4848円。最も低かったのは楢葉町の27.7%で1150円増の5300円。12〜14年度の介護保険料が最も高くなったのは、大熊町と浪江町で6500円。

 各町村とも介護保険料が軒並み高くなったのは、介護を必要とする人が増えたためとしている。原発事故の避難住民は本年度末まで、介護保険料が減免されており、住民の直接的な費用負担はない。また、各市町村は保険料を穴埋めするため、基準額に応じて国から財政措置を受けている。

 減免措置は、来年度以降も継続されるかどうかは不透明だが、厚生労働省は14年度の概算要求で財政措置の継続に向け176億円の予算配分を求めた。避難生活の長期化による要介護認定者の増加などが考慮される見通しだ。ただ、恒久的に国からの財政措置が続くとは限らず、支援が打ち切られれば、各町村の財政を圧迫する恐れが出てくる。