福島県産豚ハムで復興後押し 富岡創業の昇栄 猪狩陽一さん
東京電力福島第1原発事故に伴う避難を乗り越えて事業を再開し、県産食肉の振興に取り組む。いわき市の中部工業団地にある食肉加工業「昇栄」の猪狩陽一社長(69)は「厳しい冬でも春は必ず来る。諦めずに挑戦することが大事だ」と語る。
猪狩さんは富岡町出身。JA全農福島畜産部に20年超勤め、南相馬市の精肉店を経て2002年に同町で創業した昇栄の役員となった。県産の牛肉や豚肉などのトレー入り精肉を製造、小売店や飲食店に卸す業務で取引を広げた。
昇栄の「福島豚ハム」。熟成させた県産豚肉をスモークチップでいぶし、風味あふれる仕上がりにした
取引先社屋を間借り
だが、原発事故で富岡町では業務ができなくなった。猪狩さんは各地に避難した従業員の雇用を継続し、いわき市の取引先の社屋の一部を間借りして、11年4月に業務を再開した。その後は社長に就き、12年5月に現在の工場を新設し販路拡大に取り組んだ。
県産品が原発事故の風評に苦しむ中、11年に商品化したのが「福島豚ハム」だ。県産食肉の復興を思案した猪狩さんは、県産豚肉を使ってハム職人に製造を委託し、味で風評を吹き飛ばそうと考えた。こだわりの製法で生産量が限られるため、お中元やお歳暮の時期にしか注文を受けないが、今では隠れた人気商品だ。
苦しいときこそ汗を
猪狩さんは「大きな花が咲くと信じ、苦しい時こそ汗をかくことをモットーに取り組んだ」と震災後の歩みを振り返り、県産食肉の発展に向け「今後も前を向きまい進する」と意気込んだ。(国分利也)
連載「ふくしまシオクリビト」は今回で終わります。