『漁師の技』引き継ぐ 本格操業開始に向け総出で担い手確保

 

 多様な地形や気候などを生かし、全国有数の農業県として県内のみならず首都圏などに農林水産物を供給してきた本県。東日本大震災の津波と東京電力福島第1原発事故からの復興に向けた放射性物質の吸収抑制対策や徹底した検査などは、安全で安心な農林水産物の生産の土台となり、生産量や農業産出額の回復という形で実を結び始めた。避難区域の農業再生や本格的な漁業の再開、根強い風評の払拭(ふっしょく)など山積する課題の解決へさらなる挑戦が続く。

 東京電力福島第1原発事故後、魚種や海域を限定し、本県海域で行われている試験操業。流通ルートの確保や市場の反応を見るための取り組みだ。その先にある本格操業開始に向けた見通しはいまだ立たないが、操業開始までに取り組むべき課題の一つとして、本県の漁業者の間では、漁業の担い手確保が横たわっている。

 いわき市久之浜地区。震災前の2010(平成22)年の漁獲量は約2200トン、漁獲金額は約7億円と、同市でも最大の水揚げを誇っていた。久之浜地区でも、担い手確保は重要な課題だ。同市漁協久之浜支所青壮年部では、確保に向けたさまざまな取り組みが、本県漁業者の先陣を切る形で行われている。

 13年から3年間にわたり、県と国の補助を受け、漁業研修を行ってきた。計17回を実施。普通は一子相伝で受け継がれる技術を、同地区の漁業者総ぐるみで研修を行った。若い漁業者の技術向上や地域の漁業生産の安定化などを見据えている。

 同部長の吉田康男さんは「本格操業への意気込みは漁業者たちが持っていないと」と話す。国から事業の知らせを受けた時、いの一番に手を挙げ、研修を実行に移した。「親子以外の漁業者から学ぶことは新鮮味もある」と研修の意義を語る。

 同地区の漁業者は研修以外にも、花火大会の開催や、試験操業で水揚げされた魚を地域の行事で振る舞うなど、漁業者同士の交流や、水産業の重要性を伝える努力を惜しまない。

 「かつていわきの魚は常磐ものとして名をはせた。風評もあるだろうが、そのブランドを取り戻したい」。吉田さんの目は未来を見据えていた。

 試験操業対象72種に拡大

 試験操業は2012(平成24)年6月、タコなど3種類に限定して始まった。放射性物質検査で安全性が継続して確認された魚介類が試験操業の対象魚種に追加され現在は72種類まで増えた。

 東京電力福島第1原発から半径20キロ圏内の海域は、試験操業の対象外。本県沖で採取される魚介類の放射性物質濃度の低減などに伴い県漁連や各漁協は、試験操業の海域に第1原発の半径10~20キロ圏を追加する案を議論している。

 県の放射性物質検査で食品の基準値を超えた魚介類の割合は11年の39.8%から減少傾向にあり、15年は0.04%だった。食品の基準値は12年3月までは1キロ当たり500ベクレルで、同年4月以降は同100ベクレルに厳格化された。