試験操業6年...本格操業へ大きな課題 水揚げ量は震災前の8%

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網を手に「少しでも長く漁に出たい」と語る高橋さん

 東京電力福島第1原発事故後に本県沖で行われてきた試験操業(注1)は、6月で開始から6年となった。漁獲の対象魚種は5月末現在で、国の出荷制限がかかる11種(注2)を除く全てに拡大したものの、水揚げ量は震災前の平均量の約8%にとどまるなど、本格操業へ乗り越えなければならない課題は多い。

 試験操業は、県産海産物の出荷先での評価調査や流通を通した安全性のアピールが狙いだ。県の放射性物質濃度検査などで安全性が確認された魚種が対象となり、ことし3月まで97種だったが、4月に「出荷制限魚種を除く全て」に変更され、漁業者は全国の販売状況を見ながら漁獲する魚種を選ぶことが可能となった。操業する海域も拡大、少しずつだが前進している。

 試験操業が長引くほど漁業者にとって生計の問題が大きくなってくる。現在、漁業者は試験操業でとった魚の販売収入と原発事故の賠償金で生計を立てているのが実情。漁獲量が限られ、価格も上がっていない。相馬双葉漁協が今季水揚げしたコウナゴは高値が付いたが、関係者は「全国的な不漁による一時的な価格」との見方で、県漁連は「試験操業で生計を立てるのは厳しい」と指摘する。

 本格操業を目指しているものの、本格操業が何を指すのか、県漁連内部でも定まっていないとの課題もある。原発事故による風評払拭(ふっしょく)はもとより、流通体制の構築や操業を自粛している福島第1原発から半径10キロ圏内の海域での操業などを想定しているとみられ、県漁連は今後、検討を重ねる見通しだ。

 本格操業を見据え、県漁連は「漁獲量を増加させることが第一」と強調する。操業日数を増やすことで漁業者の収入を安定させるとともに、低下が懸念される操業意欲を維持する考えだ。県内の漁業者の数は約900人。震災、原発事故前とほぼ変わらないが、高齢化と後継者不足という震災前からの課題も重くのしかかる。

 相馬の若手漁業者・高橋さん「もっと海に出たい」

 「もっと海に出たい」。相馬市で漁業をする高橋圭さん(27)は試験操業により制限される漁への思いを明かした。一時は船を下りたが、東日本大震災の発生で漁師としての思いを再確認。本県漁業の将来を担う若者は、一人前の「海の男」になることを目指して船に乗り込む。

 幼い頃から海とともに育った。漁師だった父を手伝い、競りに掛ける魚を港で並べた。自然と漁師を志すようになり、18歳で父の小型船に乗り込んだ。

 しかし漁に本腰を入れられず、船を下りた。東京都内でアルバイトをして生活する中、「やっぱり、真面目に漁をしたい」と思うようになり、震災の2週間ほど前に相馬に戻った。

 震災は、そんな高橋さんの思いに水を差した。試験操業は始まったが、漁獲量などに制限があり、漁をする時間も限られる。生活するため、工事など別の仕事をする時間のほうが長く「一日でも早く仕事を覚えたいのに...」と、もどかしさを抱える。

 ただ震災で気付いたこともあった。相馬双葉漁協青年部のPRイベントで県内外を訪れた時、多くの人が魚を買ってくれた。「大丈夫か」ではなく「おいしいから買う」との声が多く、励みになった。「震災で漁への思いを改めて感じた」と話す高橋さん。「若手として、できることに取り組みたい」と、網を握る手に力を込めた。

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(注1)試験操業 本県の漁業再開に向けた基礎情報を得るため、小規模な操業と販売により出荷先での評価を調査する。販売する魚種について県漁連が中心となり、放射性物質の検査をしている。主な流れとして〈1〉モニタリング調査の実施〈2〉検査結果から魚種を選定、操業や流通体制を検討〈3〉相双、いわきの各地区委員会が計画を協議〈4〉漁業者や有識者、行政機関などで操業計画を協議〈5〉組合長会議で操業計画を最終判断〈6〉選定した魚種の漁獲―となる。
(注2)出荷制限11魚種 ウスメバル、ウミタナゴ、キツネメバル、クロダイ、サクラマス、シロメバル、スズキ、ヌマガレイ、ムラソイ、ビノスガイ、カサゴ