【試験操業ルポ】「今はトンネルで守られている。準備進めなければ」

 
相馬沖で水揚げされた魚の競りを行う仲買人=2021年2月、相馬市・相馬原釜地方卸売市場

 相馬双葉漁協が2012(平成24)年に試験操業を開始してから約9年がたつ。少しずつ水揚げ量を増やしている相馬市・松川浦漁港を2月末に訪れた。本格操業を見据え4月から段階的に移行する。漁業者は試験的な漁の終了や残る風評に不安を抱きながら、以前の姿を取り戻そうと懸命に船を進めていた。

 冷たい浜風が吹く松川浦。静かだった港に午前6時すぎから小型船が入り始め、活気を帯びる。漁師たちがたるで水揚げする魚を受け取るのは妻たち。種類や大きさごとに慌ただしくかごに移し替えていく。

 「見栄えがいいようにして高値がつくとうれしいの」。慣れた手つきで魚を分ける漁師の妻(67)は白い歯を見せた。震災から10年で体力の衰えも感じている。試験操業では操業日が決まっているが、ほぼ毎日操業可能だった以前は自分たちで漁に出る日時を決めていた。「本格再開後は自分たちのペースで頑張ろうかな」と笑った。

 次々検査、安全に自信

 漁協の建物の中では、職員が検体の魚を切り身にし、次々と放射性物質検査を行う。職員の一人が「こんなに安全が保障された魚は他にないよ」と自信を見せた。

 港に隣接する市場が最も活気づくのが底引き船の競り。主に行われるのは入札形式。カレイやイカなどさまざまな魚種が入ったかごでいっぱいになった市場で、30人ほどの仲買人が値段を書いた緑の紙を次々にかごに入れる。掛け声とともに漁協職員らが値段を確認し、確定の札を投入。仲買人たちは競り落としたかごをフォークリフトで運び、近くの集配施設で出荷のための箱詰め作業に入る。

 顔なじみの漁師がしみじみと語る。「震災直後と比べたら良くなったよ。でもまだまだ。市場が魚で埋め尽くされる光景が日に3回は繰り返されるんだ」

 水揚げを見守っていた原釜機船底曳網船主会長の高橋通さん(65)は試験操業をトンネルに例えた。「売れるか分からない中で規模を限定している。補償も含め今はトンネルで守られている状態」。暗闇から出た時に望むのは光だ。「雨、風にさらされてもいいように準備を進めなければならない」。決意するかのようにつぶやいた。