復興の新たな象徴に とみおかワインドメーヌ、ブドウ畑年々拡大

 
今年出来上がったワインを手にするとみおかワインドメーヌの遠藤さん。背景にはブドウ畑と太平洋が広がる=富岡町

 ワイン造りの取り組みも活発だ。富岡町産ブドウでワインを造る「とみおかワインドメーヌ」はブドウ畑を年々拡大し、川内村の「かわうちワイン」は自社ワイナリーでの醸造が軌道に乗った。このうち、とみおかワインドメーヌは来夏ごろにJR富岡駅近くに自前のワイナリーを設け、醸造したワインを2025年春に初めて一般販売する。

 太平洋を望む富岡町の小高い丘と富岡駅東側にブドウ畑が広がる。「復興と未来のために故郷のシンボルになるワインを造りたい」。代表理事の遠藤秀文(しゅうぶん)さん(52)は今年出来上がった自慢のワインを手に思いを語る。

 16年春、遠藤さんら町民有志が沿岸部の丘でブドウの試験栽培を始めた。18年に法人を設立し、駅東側に農園を広げた。現在は約3.5ヘクタールで約1万本のブドウを育てる。かわうちワイナリーに醸造を委託し、20年に初の「とみおかワイン」が完成した。

 遠藤さんは東京の会社で海外事業を担当する中、海外のワインに魅了された。06年に帰郷し「富岡は海、川、山があり、温暖な気候。景観の良いブドウ園で地元食材とワインを味わえたら観光資源になる」と気づいた。

 東日本大震災時、町長として懸命に働く父の故勝也さんの姿に影響され「自らも無人となった故郷の復興に挑戦する。ワインを核に町の魅力を高め、交流人口拡大や移住定住につなげたい」と着手を決意。ワイナリーには津波から唯一残った実家の蔵を活用する。震災前の町を伝えたり、ブドウ園も含めて見学したりするツアーも計画中だ。

 「息の長い事業で、私の代で全ては実現できない」。富岡の先人が守ってきた名所「夜の森の桜」を引き合いに「多くの人の手で長い時間をかけてワインのように熟成させる。100年先の富岡の顔をつくりたい」。遠藤さんの夢は始まったばかりだ。