住民と古里つなぐ味 浪江・鈴木酒造店、町民が誇りに思う酒造り

 
「浪江の人々が誇りに思う酒を造る」と語る鈴木酒造店の鈴木さん=浪江町

 「ただいま」。浪江町の鈴木酒造店は、東日本大震災から10年ぶりに古里で醸した日本酒に、こう名付けた。「全国に離散した浪江の人々が誇りに思う酒をこの地で造る」。社長で杜氏(とうじ)の鈴木大介さん(50)は2021年3月、醸造所を構える道の駅なみえのオープンに合わせ、浪江で酒造りを再開させた。

 沿岸部の浪江町請戸地区にあった酒蔵は震災の津波で流失したが、震災から半年後に避難先の山形県長井市で事業の再開にこぎ着けた。異郷の地で醸した酒は、全国に散った町民が古里とのつながりを維持する役割を担った。

 浪江で再開後は、地域の人々の暮らしぶりを表す酒や、浪江が持つ可能性を反映する酒を造り続ける。再開後初の定番酒は浪江産のコメと水を使い、穏やかで優しくきれいな味に仕上げた。県産品を味わう機会を増やそうと、本県沖で水揚げされる魚介類「常磐もの」に相性がぴったりの魚種別専用日本酒「魚酒マリアージュ」も開発した。

 今季の酒造りが本格化する中、今年も新たな挑戦に臨む。浪江町の花「コスモス」から取った酵母で醸した酒で、今月新発売した。鈴木さんは「浪江の暮らしぶりを発信していく」と決意を新たにしている。