【米沢街道・全2回(2)】 桧原湖底に沈む宿場町

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大山祇神社から桧原集落を望む。桧原宿とそこに続く街道も湖底に沈んでいる

 東に望む雄国山、その合間から顔をのぞかせる磐梯山、北西にそびえ立つ飯豊連峰。かつて旅人も見たであろう風景を眺め米沢街道を北上、交通の要衝として栄えた喜多方市の熊倉宿に入った。

 「磐梯山はもともと、病悩山(やもうさん)と呼ばれていた」。郷土史に詳しい佐藤一男さん(85)が教えてくれた。磐梯は「天に通じる磐(いわ)の梯(かけはし)」として仰がれたのが由来だ。ただ、昔はさまざまな呼び名があり、病悩山は「山頂付近が薄い雲に覆われ、水枕をしている様子だった」ことから、名が付いたという。円錐(えんすい)形の美しい磐梯山を記憶にとどめ、再び歩みを進める。

 米沢街道は起点となる会津若松市の大町四ツ角から上街道、中街道、下街道の三つの道に分かれ、熊倉宿の周辺で上街道と下街道が合流する。熊倉宿は1601(慶長6)年、若松から二つ目の宿駅として整備された。

 「昔はコメのことをくまと呼んでいた。熊倉の熊はコメという意味。コメ作りが盛んで人や物の往来が激しかった」と佐藤さん。代官所や本陣、問屋に加え、市場が設置され、物流の拠点となった。戊辰戦争では会津の軍勢が唯一、西軍を撤退させた戦場と伝わる。

 旧街道は、国道121号や会津縦貫北道路の開通とともに交通量が減少した。電信柱が左右交互に設置され、窮屈な印象を受ける。主要道が変わり、人や物の流れが劇的に変わったことを実感した。

 そのまま関所の番小屋や宿場のあった旧街道をたどる。修験者が出羽三山参りで通った道。途中から立ち入り禁止となり、迂回(うかい)することにした。付近の丘陵には戦国大名の葦名氏が築いた柏木城跡がある。1584(天正12)年ごろの山城。伊達氏が米沢から会津に侵攻したルートにあり、領土を守る要塞(ようさい)として重要な役割を担った。

 国道459号に入り、さらに進み、北塩原村の大塩にたどり着いた。日本地図を製図した伊能忠敬や長州藩士の吉田松陰、新選組の土方歳三らが旅や戦の疲れを癒やした宿場町。平安時代には、西行法師が句を詠んだ。

 「海女もなく浦ならずして陸奥の山賊のくむ大塩の里」
 「浦遠きこの山里にいつよりかたえず今まで塩やみちのく」

 約1200年前、空海が護摩を焚(た)き続けたところ、塩の湯が湧き出したとされる。「会津山塩」の起源だ。村人が製塩し、会津藩に納めた。明治時代には、皇室に献上された。

 旅館米沢屋を左折して旧街道へ。車1台が通れるほどの狭い道幅や勾配(こうばい)が急な斜面。徒歩で峠を越えるのは大変だったと想像する。しばらくすると中ノ七里の一里塚跡があった。14里(約56キロ)に及ぶ米沢街道の中間点。

 道路脇に獣道が残る。数百年間、荷を運んだ人馬の足で刻まれた跡が溝となり、踏み固められた状態は今も変わらない。

 道を登り切ると、きらりと輝く桧原湖の水面が広がっていた。1888(明治21)年の磐梯山噴火で川がせき止められて形成された広大な湖。477人が犠牲となり、桧原宿は水深約15メートルの湖底に沈んだ。鎮守山神社(大山祇神社)は高台にあったため、水没を逃れた。渇水期で水面が下がれば、鳥居や参道の古株が姿を現す。

 遠くにかすむ磐梯山は熊倉宿周辺で見た美しい姿とはかけ離れていた。「水蒸気爆発で山体が吹き飛んだ。不格好で恐ろしい」。佐藤さんの言葉が心に響く。湖畔に根を張る集落からは、自然に立ち向かう人の強さとはかなさが垣間見えた。 

米沢街道

 【 記者の「寄り道」スポット 】

 雄国山麓の喜多方市熊倉町にある百日紅(さるすべり)(電話0241・24・3101)。看板メニューの「体験 百日紅」(税込み1250円)は獅子沢そばや天ぷら、こづゆなどのセット=写真。地元の雄国農園で栽培したブルーベリージュース(同320円)やプリン(同170円)も人気だ。周辺には「恋人岬」「恋人坂」と呼ばれる場所があり、会津盆地を一望できる。

 会津一望の丘は喜多方の市街地と裏磐梯地区の中間に位置する国道459号のポケットパーク=写真。会津盆地を囲む山々などの絶景が広がる。東京都が本県の震災復興に向けた「桜の交流プロジェクト」として、NHK大河ドラマ「八重の桜」にちなんだ八重咲きや一重咲きの桜を植樹した。春には、かれんな花を咲かせる。

 会海水の成分が高温の地下水に溶け出し、源泉となった大塩温泉。「会津山塩」はその源泉をまき釜で煮詰め、自然乾燥で作られた北塩原村の名産だ。奥裏磐梯らぁめんや(電話0241・34・2200)は山塩や昆布だしで仕上げたスープが楽しめる山塩ラーメン(税込み700円)=写真=を提供。隣接する桧原歴史館では、湖底に沈んだ桧原宿の出土品を展示している。