【板谷街道・全1回(1)】 「先人の心」伝える街並み

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黒い板塀に囲われた農家がある福島市の大森城跡周辺。景観を大切にする人々の心持ちが伝わる

 街道物語も今回で最後。掉尾(とうび)を飾るのは福島市の南部、八丁目宿から、市内西部を北へ縦断し山形県米沢市との境、板谷峠に至る米沢街道(通称板谷街道)である。延長30キロ程度。知名度も低い。奥州街道が天下の大街道なら、こちらは小街道だろうか。だが、そんな道にも物語はある。

 なお、会津の米沢街道との混同を避けるため板谷街道と記す。

 起点の八丁目宿は奥州街道の宿場。今の福島市松川町の中町、本町の辺り。旧街道に面した長命堂薬局の斎藤美智子さん(75)によると、参勤交代の一団が泊まった名残か、今も旅館が多い。戦前には遊廓が繁盛し、夕方になると太鼓の音が響いたとか。

 中町の丁字路が、奥州街道と板谷街道の分かれ道「追分」。ここから西へ板谷街道が延びる。少し先に戦国の山城「八丁目城」跡。麓は体育館と仮設住宅が立っていた。

 板谷街道が開かれたのは、戦国の雄伊達氏が本拠地を桑折西山城から米沢城へ移した16世紀半ば以降。米沢の本城と大森城、八丁目城など信夫、安達郡内の伊達氏の拠点を結ぶ幹線として発達したという。政宗も二本松、会津を攻めるため、この道を駆け抜けた。

 城跡の先は、「米沢・土湯道の分岐点」の柱標の所で北へ折れ、東北道とつかず離れず進む。所々で二つ重なった大岩や石碑を見つけるが、昔の面影などない所も多い。JR東北線金谷川駅の西側では家がたて込んでいて迷う。やっと東北線を越えると、道が突然、つづら折りになって下り始めた。

 坂を下り切った先は平石地区。あとは、この盆地の底の田園地帯を北へ進むだけだ。

 宿場町の風情を残す大森で、街道西側の大森城跡に登る。城山公園として整備され、山頂の本丸跡は子どもが野球できるくらい広い(だが球技は禁止)。眺望も開け、福島盆地が丸見えだ。この城が軍事拠点だったことを実感する。

 しかし、栄枯盛衰は世の常。豊臣秀吉の奥州仕置を経て信夫郡が蒲生氏郷の領地になった16世紀末、大森城は城主が小規模な杉妻(福島)城に移り、拠点の座を譲る。豊臣政権の軍縮策だろうか。

 ただ江戸時代、大森周辺は代官によって改修され、整然とした街並みが残った。城跡周辺を散策すると山の北側の滝ノ前で美しい風景を見つけた。黒い板塀に囲われた古く大きな農家があり、堀が巡らしてある。景観を大切にした人々の心持ちが伝わる。

 さて大森の追分から北へ。宅地と果樹畑が混在する平地をひたすら進むと、庭坂宿に至る。

 江戸時代に入ると板谷街道は米沢藩の参勤交代の道になった。庭坂宿では3代目藩主上杉定勝が参勤交代の往復で、ほぼ毎回宿泊したという。現在も、町庭坂の荒町辺りには大きな旧家が多い。

 この宿場の外れの黄金坂から街道はいよいよ険しい山中へ入る。

 殿様が通る道だけに板谷峠の手前には1613(慶長18)年、米沢藩士阿部薩摩により李平(すももだいら)宿が開かれ、敷石も敷かれた。しかし、この周辺は、赤穂浪士の別動隊が討ち入りに失敗した場合、米沢へ逃げる吉良上野介を討つために潜伏していた―との不気味な伝承があるくらい森が深い。そのため明治初期、栗子峠を越え米沢に至る万世大路が開通すると、往来は消え李平宿も山中で朽ちたという。

 「さあ、いよいよ幻の宿場跡」と胸高鳴らせ山道を進む。すると目の前に、柵と「積雪のため冬季通行止め」の看板が現れた。まさに幻。物語が一炊の夢なら、ふさわしい幕切れかもしれない。

板谷街道

 【 記者の「寄り道」スポット 】

 八丁目城は16世紀、伊達稙宗(陸奥守護・桑折西山城主)の支城として築かれ、一時は二本松畠山氏の勢力下に入ったが、1574(天正2)年、大森城主伊達実元(稙宗の子)が奪回。その後も、伊達政宗の重臣片倉小十郎景綱ら歴代大森城主が支配。豊臣秀吉の奥州仕置で廃城になったとみられる=写真

板谷街道

 あぜみち(福島市成川字金田6の5、電話024・593・5258)は、板谷街道沿いでは貴重な飲食店。同街道との交差点から数十メートル東の土湯街道沿いで「とろ~りカレーうどん」の看板を掲げる。カレーうどん(税込み750円)は、つゆのとろみ、豚肉とネギの存在感が魅力。多彩なミニ丼うどんセットも。店主高橋薫さん(67)は街道にも詳しい。月曜日定休。(写真はカレーうどんセット)

板谷街道

 大森城は標高147メートルにあった。古くから豪族の拠点だったとみられ、戦国時代には伊達氏が支配。伊達実元、その子で伊達政宗の片腕として活躍した成実らが城主を務め、政宗の仙道地方(中通り)進出のため中継基地として機能した。現在の城山公園は桜の名所として親しまれ、本丸跡には多くの記念碑=写真=もある。

板谷街道


 ( 連載「街道物語」は今回で終わります )