【3月31日付社説】大熊の駅前再整備/新たなまちで広域再生図れ

 

 大熊町のJR大野駅西口を中心とした下野上地区で、市街地の再構築に向けた工事が本格化している。同地区は2022年6月に特定復興再生拠点区域(復興拠点)として避難指示が解除された場所で、年内には新たなまちの姿が見えてくる状況にある。

 大野駅西口では、町が整備する鉄骨3階建てのオフィスビル「CREVAおおくま」が12月に完成する。面積ベースで約9割の入居が決まっており、新たな人の流れが生まれる見通しだ。隣接する商業施設「クマSUNテラス」は11月の完成を目指し、住民生活を支える飲食店などが1~2店舗入る鉄骨平屋建てを5棟建設する。

 大熊町は、町南西部の大川原地区に役場を整備し町の再建を図ったが、かつての中心部の下野上地区の再生を望む声は根強い。広域的に見ても、県立大野病院の後継医療機関が建設される下野上は復興政策上の要地となる。町は大熊への思いがある施設の入居企業との連携で一過性ではないにぎわいを創出し、地区と双葉地方のさらなる復興につなげてもらいたい。

 町は下野上地区に大野南、原の二つの住宅エリアを設定し、計50戸の戸建て賃貸住宅を建設した。入居者を募ったところ、かつての町民や移住を希望する人で、車いす専用の住宅を除く全てが埋まった。町内には企業の拠点や大学キャンパスの整備が予定されており、町は今後も一定の住宅需要があると見込んでいる。

 大川原地区は農地が主で、定住人口の増加に向けこれ以上の住宅を増やすことが難しいのが現状だ。町は下野上地区を帰還や移住のニーズに応じた住まいの確保の場として、公営住宅の建設や民間住宅の改修支援、分譲地販売などの施策をバランス良く組み合わせ推進していくことが重要だ。

 町が大川原地区に公営住宅を整備した際、震災前は町内の各地に住んでいた町民が集まったことから、人と人のつながりを新たにつくり直した。地区内で足りない生活サービスを補うため、鉄道へのアクセスや買い物施設への移動手段として、大野駅方面とJR富岡駅方面の2系統の生活循環バスを運行した。

 町は大川原地区と下野上地区の二つの生活拠点が成立することを受け、下野上の住民同士の結び付きを促すほか、デマンド交通の導入を通じた両地区の連携を図ろうとしている。町は、今回の再整備を契機に、直近の利便性向上に加え、将来の住民の高齢化も見据えた交通手段や生活支援の枠組みを構築することが求められる。