【健康長寿・禁煙(2)】吸ってもおいしくない 薬服用後に変化
「吸っても満足しない」「吸っても吸わなくてもいい感じ」。禁煙前の「準備期間」だった10月上旬、記者(39)が禁煙外来の最初の診察で渡された「禁煙手帳」のメモ欄にそう書いた。喫煙しながら、禁煙補助薬「チャンピックス」の服用を始めていた頃のことだ。一服で得られていたはずのすっきりする感じが、ない。
薬のメカニズム説明
2度目の診察で福島市の大原綜合病院を訪れた際、担当の石橋敏幸副院長(63)に手帳を渡した。「味が変わった? いいですね」と笑顔を見せ、あらためて薬のメカニズムを説明してくれた。
石橋医師によると、たばこを吸うと煙に含まれるニコチンが脳の「ニコチン受容体」と結合し、快感を生む物質(ドーパミン)が放出される。快感を得ると同時に吸いたい欲求が生まれ、喫煙が習慣化する。
チャンピックスの成分はこのニコチン受容体とくっつくことでニコチンの結合を遮断し、たばこを吸ってもおいしいと感じにくくする。また、受容体との結合で少量のドーパミンを放出し、禁煙に伴う離脱症状を軽減させる。
「理にかなった治療法です」。石橋医師には十数年に及ぶ禁煙治療の経験がある。2008(平成20)年から国内で販売が始まったチャンピックスが現場に導入されて以降、ニコチンを体に入れるパッチやガムだけが治療に使われていた以前に比べて禁煙成功率が上昇した。過去何度も禁煙に失敗した80代の人が「たばこを吸ってもおいしくない」と、新しい薬で禁煙に成功したケースもあるという。
石橋医師が何度も「禁煙中に吸いたくなったら吸ってもいい」と強調していたのは、味の変化を実感してもらうためだった。「吸っても良いだなんて、(禁煙治療のガイドブックなどには)どこにも書かれていませんけどね」。長年の経験に基づくアドバイスだ。
震災直後の対応後悔
そんな石橋医師だが、震災と原発事故直後の対応については後悔を口にする。血管の病気を抱えるなど喫煙のリスクが大きい患者に禁煙治療を勧めてきたが、当時は石橋医師も治療開始を躊躇(ちゅうちょ)することがあったという。
避難や放射線不安などに伴うさまざまなストレスに県民がさらされていた当時、禁煙挑戦は酷ではないかとの配慮からだったが、「今思うと、あれは良いことではなかった」と振り返る。
震災と原発事故後に実施された国の2012年国民健康・栄養調査では、本県の成人男性の喫煙率は39.7%で、全国で最も高かった。