脳卒中について。その23

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その23
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。引き続き、糖尿病の治療についてお話します。糖尿病の治療には、食事療法・運動療法・薬物療法の3本柱があります。今回は薬物療法についてです。
 食事療法・運動療法を継続的に実践しても血糖コントロールが十分に得られない場合に薬物療法が開始されます。もちろん薬物療法が始まっても、食事療法と運動療法は継続しなければなりません。続けることにより薬物療法の効果も上がってきます。1型糖尿病はインスリン注射が必須となります。ここでは糖尿病の大部分を占める2型糖尿病の薬物療法、特に非インスリン療法を中心にお話します。

1.薬物の選択はどうするの??

 最近では、薬の種類が増えており、主治医の判断によって症状に応じたものが選ばれます。糖尿病のタイプや症状、糖尿病による合併症、そして血糖コントロールの状態などを正確にみた上で、どんな薬を使うかが決められます。患者さんを総合的に考えて、効果的でより副作用の少ない治療を選択します。ただし、初診でインスリン療法が絶対適応になる方は、すぐにインスリン治療が始まります。

2.薬物の種類はどんなものが

 インスリン以外の糖尿病治療薬には、作用機序の違いから経口糖尿病治療薬3系統7種類(図1)と、注射薬であるGLP-1受容体作動薬1種類の合計8種類があります。詳細はここでは省きますが、これら8種類の薬剤を、年齢や肥満の程度、合併症、高血糖や代謝異常の程度、薬剤の副作用を考慮して選択されます。
 1つ目は、インスリン抵抗性を改善する2種類の薬剤です。
 2つ目は、膵臓からのインスリン分泌を促進させる3種類の薬剤です。
 3つ目は、糖の吸収を抑制する薬剤と腎臓からの排泄を促進させる薬剤です。
 これらの経口糖尿病薬は少量から開始されて、血糖値やHbA1cの値を見ながら、徐々に増量されていきます。通常、食事療法と運動療法などの生活改善と1種類の薬剤の組み合わせを行い、効果が得られない場合には2種類以上の薬剤の併用を行います。また、複数の薬が合わせて作られる合剤と呼ばれるものもあります。
 注射薬は、血糖依存的にインスリン分泌を促進して、血糖上昇させるグルカゴンというホルモンの分泌を抑制させて、血糖を下降させます。さらに、食欲抑制効果や体重減少効果もあることから、肥満2型糖尿病の患者さんに使用されています。主に糖尿病専門医が処方する薬剤です。

3.薬剤を使用する上での注意

 薬剤には、それぞれ薬物自体の特徴や合併症が起こる可能性があります。薬を使用するようになったら、自分が使う薬はどういう働きをするのか、どんな注意が必要かなどを理解することが大切です。
 薬物療法は、薬のことをよく理解して正しく使い、自己判断で服薬を中断せずに指示どおりに続けることが基本です。
 薬物療法で最も気をつけなくてはならない副作用は低血糖、つまり、血糖値が下がりすぎることです。軽症では冷や汗、手足の震え、めまい、動悸、四肢の脱力、呂律障害、目のかすみなどの症状が出現します。重症になると意識が悪く、さらに重症となると昏睡状態となり、生命の危険にさらされます。特に高齢者では、低血糖が繰り返されると認知機能低下やADL(日常生活)の低下につながりますので、低血糖の予防に十分留意しなければなりません。そのためには患者さんの病態や心身の機能、サポート体制などを評価することが大事です。高齢者糖尿病診療ガイドラインでは、HbA1cの管理目標が、若い患者さんに比べかなり緩徐になっています(図2)。
 薬の量を減らす、増やす、止めるなどの判断は、医師が患者さんの状態に合わせてその都度適切な処方をしていますので、必ず医師の指示に従うようにしましょう。血糖コントロールが順調な時は、食事療法・運動療法と、服薬している薬がうまく機能しているからです。
 また、生活習慣の改善や体重減少により、糖毒性(高血糖により、インスリン分泌の障害と作用障害がさらに増悪して悪循環になること)が解除されれば、経口糖尿病薬の減量や中止が可能となる場合もありますので、よく主治医と相談することが大切です。
 もし、今、服薬している薬について少しでも不安や疑問があれば、遠慮せずに主治医または薬剤師に相談するようにしましょう。安心して、信頼して薬が飲めることも、治療の継続と成功への大切な要素であり、それが脳卒中や心筋梗塞、腎不全などの合併症を予防することにつながります。

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 次回は糖尿病の合併症についてお話します。
 ※引用文献:糖尿病治療ガイドライン2018-2019 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン

月号より