脳卒中について。その51 【脳卒中予防十か条の9】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 今回は、「太りすぎ(肥満)」についてお話しします。太りすぎると、脳卒中の危険因子となる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)になってしまうリスクが2倍以上になるといわれています。

 1.BMI(体格指数)

 肥満かどうかを知る方法としてBMIと呼ばれる指数があります。これは【体重(㎏)÷身長(M)÷身長(M)】の計算式で求められます。

 例えば60㎏で170㎝の人は、60÷1・7÷1・7=20・76になります。BMIが25以上あると肥満であり、18・5~25までは適正となります。さらに35以上になると高度肥満となります。つまり、BMIが25以上になると生活習慣病になりやすくなるというわけです(図1)。
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 2.肥満症

 BMIが25以上でも肥満に伴う健康障害を伴わず、内臓脂肪組織の過剰蓄積も認めない場合には「健康的肥満」と分類され、疾患としては扱われません。単なる太っている状態です。しかし、肥満に健康を脅かす合併症がある場合や合併症になるリスクが高い場合には、単なる「肥満」ではなく「肥満症」という病気と診断されて治療の対象となります。肥満に伴う健康障害としては
① 耐糖能障害(2型糖尿病や耐糖能異常)
② 脂質異常症
③ 高血圧
④ 高尿酸血症・痛風
⑤ 冠動脈疾患
⑥ 脳梗塞・一過性脳虚血発作
⑦ 非アルコール性脂肪肝
⑧ 女性の月経異常・不妊症
⑨ 睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
⑩ 運動器疾患:変形性関節症(膝・股関節・手指関節、変形性脊椎症)
⑪ 肥満関連腎臓病

 男性に多い内臓脂肪組織優位型の肥満症は、これらのうち、耐糖能異常や脂質異常症などの代謝系の合併症が多い傾向にあるのと比較して、女性は、皮下脂肪組織優位型の肥満症が多いため、代謝性合併症は少ないですが、一方、骨・関節などの運動器疾患や睡眠時無呼吸症候群などの合併症が多い傾向にあります(図2)。

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 健康診断などで指摘される「メタボリックシンドローム」は別名、内臓脂肪症候群と呼ばれ、肥満である、ないに関わらず、内臓脂肪の蓄積(男性なら腹囲85㎝以上、女性なら90㎝以上)および、血圧、血糖値、血清脂質のうち2つ以上が基準値より外れている場合に診断されます。BMIが35以上あり、健康障害や内臓脂肪蓄積のある肥満の人は高度肥満症と診断されます。通常の肥満と比べて、心臓や肺に負担がかかり、心不全が起きたり、睡眠時無呼吸症候群、皮膚疾患が増えたりする特徴があります。また、体重を支える足腰に負担がかかり、痛みが出て、ますます日常生活での活動が制限されて体重が増加するという悪循環に陥ってしまいます。

 3.現代人の肥満

 肥満は食べ過ぎや運動不足が要因であるなどと負の印象で見られることがありますが、現代人にとって肥満は、必ずしも自己責任という考え方は誤りであり、社会環境や遺伝なども関係しており、決して負の印象でとらえるべきではありません。例えば、車社会になったことや交通網が発達したことで歩く機会が減ったこと、手軽に利用できるコンビニエンスストアや飲食店が多いなどの食環境の変化、個人の置かれた就労や家庭環境、残業、自由時間の減少などの社会的、心理的ストレスも関係しています。これらは個人の努力とは無関係です。

 また、肥満の発症には遺伝子が関係していることも分かってきており、食べ物の消化、吸収、代謝などに関係するホルモンの分泌量、さらには腸内環境や体質も関係しているといわれています。運動を多くして、食事摂取量を減らせば、だれでも簡単に体重管理ができるという単純なものではありません。ですから、肥満の人をみて、自分に甘いとか我慢ができないなどのマイナスのイメージで見ることは決してあってはいけません。また、肥満の人が自分は自己管理能力がない、ダメな人間だと思い込むこともありません。肥満に悩んでいる方は肥満症外来を行っているクリニックや内科などに相談してみてください。

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次回は肥満症の予防、治療についてお話しします。