脳卒中について。その54 【脳卒中予防十か条の9】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 今回は高齢者と小児の肥満について「肥満症診療ガイドライン2022」を参考にお話しします。

 高齢者の肥満の特徴

 肥満の基準になるBMI(体重㎏÷身長(m)÷身長(m))は年齢を重ねるに従い、増加傾向になります。なぜなら、加齢に伴い身長が低下するため、実際よりBMIが高値となることがあるからです。ウエスト周囲長も高齢になると増加傾向にあります。肥満を伴わないウエスト周囲長が高値である割合も加齢と共に増加します。肥満は中年までは動脈硬化性疾患の危険因子ですが、高齢者のBMIと動脈硬化性疾患の関連は乏しくなると報告されています。

 一方、ウエスト/ヒップ比で評価した腹部肥満はBMIと比べ死亡リスクの指標になるという報告が多いようです。中高年齢者でのメタボリックシンドロームや肥満が心血管疾患の発症リスクになることは疑いのないことですが、高齢者では高度肥満でなければ、BMI高値が心血管疾患や死亡のリスクと必ずしも関連が強いとは言えず、むしろ死亡リスクが減少するという「肥満パラドックス」が知られています。これは高齢者ではBMIの有用性が低いこと、併存疾患の影響などでもたらせると考えられています。

 次に高齢者肥満の特徴に挙げられるのが、移動能力の低下や日常生活動作(ADL)の低下のリスク上昇です。また、肥満になると姿勢保持障害、疼痛、身体能力低下、バランス能力障害、および歩行時の揺れなどが転倒のリスクを上昇させるのも特徴になります。

 サルコペニア肥満

 サルコペニア(加齢による筋肉量の減少)と肥満が合併したサルコペニア肥満は、基礎代謝の減少、および身体活動量の減少は体脂肪の蓄積をきたすために、高齢者に多いとされています。サルコペニア肥満では身体能力低下、転倒、骨折だけでなく、メタボリックシンドロームなどの代謝異常、心血管疾患、死亡のリスクが上昇するといわれています。肥満と筋肉量、筋力低下との関係でみると、肥満で筋肉量及び筋力が低下しているほど、心血管疾患が多いというデータがあります。

 また、BMIとサルコペニアの関係ではBMIが最も高い群と最も低い群でサルコペニアが多いという結果が出ています。以上から、高齢者では、単に体脂肪率が高いことではなく、体脂肪率が高く、筋肉量が少ないことが心血管疾患、ADL障害に伴う死亡リスク上昇に関連すると判断できます。さらに、単なる肥満よりもサルコペニア肥満では、認知機能低下のリスクが高かったという報告や、うつの発症リスクが高かったなどの報告もあります。

 これらのことから、高齢者の肥満については痩せるべきなのかどうかの見極めが大切になります。目標BMIは22︱25として、通常より高めに設定されています。つまり、太り過ぎも悪いが、痩せ過ぎもよくないということです。高齢者の場合、やみくもに痩せると、骨が弱ったり、フレイル(虚弱)と呼ばれる状態になったりして、転倒、骨折のリスクも上昇します。ただ、太り過ぎても、膝や腰の疼痛につながるだけでなく、認知機能低下のリスクも高めるという研究結果もあります。筋肉量を維持しつつ、肥満症対策をとることが重要になります。

 小児の肥満症

 わが国では、小児の肥満の定義は、大人と違い、肥満度(%)を使用します。その計算式は以下の通りです。肥満度(%)={(実測体重㎏︱標準体重㎏)÷標準体重㎏}×100が用いられています。6歳以上では20%以上が軽度肥満、30%以上が中等度肥満、50%以上が高度肥満となっています()。

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 小児でも内臓脂肪蓄積は肥満による健康障害と関連が強いとされています。内臓脂肪蓄積を疑う腹部肥満の簡易測定法として、ウエスト周囲径が用いられます。小児ではへその高さで80㎝以上の場合やウエスト(㎝)÷身長(㎝)が0・5以上の場合に腹部肥満ありと診断されます。

 小児の肥満症も大人の肥満症と似ており「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予測される場合で医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾病単位として扱う」と定義されています。

 これは、成長過程の小児は、生理的範囲での体重増加は必要であり、小児の肥満症の治療では、身長が伸びても体重が現状維持できれば、肥満度が低下することになることによります。しかし、小児期の内臓脂肪蓄積は早期動脈硬化を生じさせるとの報告があり、小児期にメタボリックシンドロームの診断を行うことは心血管疾患予防上大切といわれています。

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 次回は脳卒中を予防するための十か条の10についてお話しします。