脳卒中について。その49 【脳卒中予防十か条の8】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 体力に合った運動続けよう

 今回は脳卒中を予防するための運動についてお話しします。以前も脳動脈硬化を防ぐための運動について触れましたが、もう少し詳しく紹介します。

1.身体活動の意義、運動の効果

 厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動基準2013」で「運動」と「生活活動」を合わせて「身体活動」と呼ぶことは以前、お話をしました。その中で、日常の身体活動量を増やすことで、メタボリックシンドロームを含め、循環器疾患、糖尿病、がんといった生活習慣病の発症やこれらによる死亡に至るリスク、加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドロームや認知症)をきたすリスクを軽減できる効果があります。

 さらに、疾病予防だけでなく、気分転換やストレス解消になり、爽快感や達成感、精神的充実が得られ、メンタルヘルス不調の一次予防になります。全身の持久力や筋力などの体力維持や向上にも有用であり、ストレッチ運動や筋力トレーニングをすることで、腰痛やひざ痛などが改善する可能性もあります。中等度以上の運動をすることで上気道の風邪などにかかりにくいこと、さらに、生きがいや趣味が見つかり、社会的な意義や役割を持つことができるなど、さまざまな角度で生活の質の改善に効果があるといわれています。一方、身体活動量の低下は肥満や、糖尿病、がんといった生活習慣病の危険因子になります。

2.運動の種類

 ⑴ 有酸素運動

 全身を使った運動です。酸素を取り込み筋肉を動かし、基本的な体力や持久力を身に付けることができ、さらに心肺機能も鍛えることができます。例えば早歩きの散歩、ジョギング、自転車、エアロビクス、水中ウオーキングなど、楽に行える強度から、息が弾む、ややきついと感じる強度の運動にあたります。

 有酸素運動を行うことで消費するエネルギー量が増え、血圧も上がりにくいなどの利点があります。事故やけがなどのリスクも低いため、安全で初心者でも取り入れやすく、継続できる運動です。

 ⑵ ストレッチ運動

 ストレッチ運動は筋肉の柔軟性を高め、運動時のけが予防や疲労回復に役立ちます。血行が促進され、肩こりや腰痛が改善したり、精神的なリラックス効果があります。息を止めずに、また反動もつけずに筋肉が伸展していることを意識して行います。

 ⑶ 筋力トレーニング

 運動を効果的に行うために、筋力維持、あるいは筋力増強、筋肉量向上を図ります。加齢により臀部や下肢の筋力低下が起こりやすくなるため、つま先立ちやスクワット(図1)、お尻の位置よりも後ろに足を上げるような運動は効果があります。

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 ⑷ バランス運動図2

 バランス能力が低下すると、転倒、骨折などのけがのリスクが増加します。四つんばいになり、右手と左足を上げ10秒キープし、次に左手と右足を同様に上げる運動を行います。

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 これら4つの運動は高齢者でも非常に効果があります。特に筋力トレーニングは、高齢者でも筋力増強、筋肉量向上が期待でき、その効果として姿勢保持能力や移動能力の向上、転倒やけが予防があり、生活の質の向上につながります。また、加齢に伴い筋力が衰えるサルコペニアや加齢により虚弱体質となり介護が必要になるフレイル、足腰などの運動器の疾患により日常生活に支障をきたすロコモティブシンドロームの予防や改善にも非常に効果があります。

3.運動方法

 年齢別に分けると、身体活動では18~64歳までは「歩行や掃除などの身体活動を毎日60分間行うこと」と「息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行うこと」が身体活動と運動の基準であり、65歳以上では「内容は問わないので、とにかくじっとしたままではなく、身体活動を40分行うこと」とされています。

 「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」では、「今よりも10分多く毎日動くことを目標にすること」と呼びかけています。具体的には以下のようなことが例として挙げられています。
・歩く時は歩幅を広くして早歩きで歩く
・仕事での移動中は階段を使う、遠くのトイレまで歩いて行く、休憩時間に軽い体操を行う
・掃除や洗濯などはキビキビと動いて行い、家事の合間には体操を行う
・テレビを見ながら筋力トレーニングやストレッチを行う
・地域の運動施設やスポーツイベントへ参加する
・休日は家族や友人と外出して身体を動かす
・通勤や買い物は自転車や徒歩にする

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 次回も運動についてお話しします。