脳卒中について。その56 後遺症の一つ高次脳機能障害

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 脳卒中後の身体的後遺症やリハビリテーションについては、以前「脳卒中について その11からその17」で述べましたが、今回は、脳卒中の後遺症の一つ「高次脳機能障害」についてお話しします。脳卒中後、幸い身体は元に戻ったものの、どこか違う人みたいになってしまったりすることがあります。それらの症状を高次脳機能障害といい、以下のようなものがあります。

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 1.記憶障害

 新しい情報を記憶、保持し、必要な時に引き出すことができなくなること。

 ●生活の中で起きたことや出来事を忘れる
 ●人から言われたことや自分が話したことを忘れる
 ●片づけた場所を忘れてよく物を無くす
 ●約束や予定を忘れる

 2.注意障害

 外からの刺激に対して、注意を向け集中したり、持続したり、無関係の刺激を抑制したり、同時にいくつもの刺激に注意を向けたりすることへの障害。

 ●話についていけない、周囲の状況に気が付かない
 ●物事に集中できず、ぼうっとしている
 ●あることから別のことに注意力を向けられない
 ●落ち着きがなく、ミスが多くなり、効率が上がらない

 3.遂行機能障害

 目的を持った一連の活動を論理的に考え、計画し、手順を考えて行動することへの障害。

 ●自分から行動が開始できない
 ●計画ができず、要点を絞り込むことができない
 ●一つ以上の考えが思いつかない
 ●順序よくまとまった形で実行できない

 4.社会的行動と情緒の障害

 状況に適した行動がとれない、感情のコントロールがうまくできない、欲求が抑えられないといった障害。

 ●待てない、イライラしやすい、怒りっぽい
 ●すぐにパニックになる
 ●欲求のコントロールが抑えられない
 ●何もしようとしない

 5.言語とコミュニケーションの障害

 【失語症 言語中枢が損傷されておこる言語そのものの障害】

 理解はよいがとつとつと話すタイプとなめらかだが言い誤りが多く、理解が悪いタイプがあります。

 ●なかなか言葉が出ない
 ●言い間違いをする
 ●読み書きができない
 ●簡単な計算ができない

 【コミュニケーション障害】

 話はできるが、相手の意図やユーモアが通じないなど意思疎通に問題が生じること。

 ●まとまりがない、脱線しやすい
 ●言葉通りの理解しかできない
 ●感情やニュアンスが伝わらない
 ●共感できない

 6.半側空間無視

 損傷された大脳と反対側の空間や身体におけるできごとを無視すること。

 ●右や左などの片側にあるものを見落としたり、歩行時にぶつかってしまったりする
 ●麻痺があるのに無いようにふるまう

 7.失認

 見ること(視覚)や聞くこと(聴覚)の機能に障害はないのに、それが何であるか認識ができないこと。

 ●見えているのに、それが何であるかわからない
 ●聞こえているのに、それが何の音かわからない
 ●声を聴かないと誰だかわからない

 8.動作と行動の障害 失行

 運動麻痺は無いのに、パターンや順序を覚える必要がある作業を行う能力が障害され、一連の動作や簡単な動作がうまくできないこと。

 ●服を着る時、袖口から手を入れようとしたり、前後を逆にして着ようとしたりする、ボタンを留められない
 ●歯ブラシを反対に持つ
 ●道具を使う動作(金づちで釘をたたく、ねじを回す)などができない

 その他、自己意識性の障害や地誌的障害などもあります

 高次脳機能障害の問題

 これらは単独で出現する時と重複して出現することがあり、症状の出方も個人により一人一人異なります。症状は周囲の環境により、良くなったり、悪くなったりすることもあります。また、言葉や身体に異常がない方が多いため、外見上分かりにくいことや、本人も障害が起きていることを自覚していないこともあり、家族や周囲の人が対応に困ったり、精神的ストレスが溜まったりすることがあります。

 ◆   ◆   ◆

 次回は高次脳機能障害の治療や家族の対応などについてお話しします。