脳卒中について。その53 【脳卒中予防十か条の9】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 今回は肥満の治療、特に行動療法と運動療法についてお話しします。〈〉は肥満の診断されてからの治療指針を示したものです。前号も参考にしてください。

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 1.肥満の行動療法

 肥満を治療する上で、行動療法が有用といわれています。行動療法とは、普段の生活する上で、体重増加の原因となっている「問題のある行動」に自ら気が付いて、考えて修正をしていく方法です。特に、肥満の方は食行動に問題を抱えていることが多いため、肥満につながる食べ方がないかを洗い出して対処します。

 ①食行動質問表

 まず、自分はどういう食生活を普段行っているのか、くせや自分の傾向を洗い出します。そのために、食行動質問表を使用して、食事にまつわる55個の質問に答え、自身の食習慣を把握し、問題点がないか考えます。

 例えば早食いである、外食が多い、間食をする、ストレス食いをする、ファーストフード店をよく利用する、買い物に行った際には多く買いすぎていないかなどの質問です。そこから肥満につながるような食べ方のくせや傾向、ずれを見つけることができます。その抽出された問題点を見直して、体重減少につなげるような行動をとるようにします。

 この方法は実際の臨床の肥満外来でも使用されており、肥満患者さんの食生活の傾向を把握して、対策を取り、食生活の改善に、そして体重減少に役立ちます。

 ②グラフ化体重日記

 肥満症診療ガイドライン2022ではグラフ化体重日記を勧めています。1日4回、起床直後、朝食直後、夕食直後、就寝直前の体重を毎日記録し、体重の増減を分析する方法です。1日4回測定するのが難しい方は、1日2回でも結構です。体重を記録して、グラフにするというとても簡単な方法ですが、自分の体重が「見える化」され、体重の増減でグラフが乱れるので、すぐに自分でも気が付きます。

 大きくグラフが右上がりの増加をした場合には自分でもショックを受けると思いますし、その原因が食生活や生活習慣に問題があったのかを考える機会になります。毎日記録をすることで、うまくいけば減量を実感でき、減量をキープしたいというモチベーションにもなります。問題行動が分かれば、生活習慣を改善したり、自分の行動をセーブしたり修正することができ、よりよい生活パターンを築くことができ、減量に繋げられます。

 記録はノート、紙、グラフ用紙でもよいですが、最近はスマートフォンやタブレットでの健康管理アプリも充実したものがあり、簡単で便利ですので、それらを使用するのも一手かと思います。

 2.肥満の運動療法  すでに、8月号「脳卒中について。その49【脳卒中予防十か条の8】体力に合った運動続けよう」で運動療法については詳しく話しました。肥満の運動療法は、有酸素運動とレジスタンス運動が適しています。

 有酸素運動はジョギング、サイクリング、水泳などの種類で「ややきつい」と感じる程度の運動強度で30~60分の運動を週に3回以上を行うことが勧められています。糖や遊離脂肪酸を燃焼して、持久力向上に役立ちます。

 レジスタンス運動はスクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操などの標的となる筋肉に抵抗(レジスタンス)を加える動作を繰り返す運動です。この運動では筋肉量が増大して筋力が付き、基礎代謝の維持を図れます。太もも、体幹、お尻、ふくらはぎなどの大きめの筋肉のトレーニングが適しています。

 以前もお話ししたように、食事療法と運動療法を併用して、食事による摂取エネルギーより運動による消費エネルギーを増やすことにより、身体のタンパクを減らさずに、体脂肪を減少させて体重減少効果が得られます。肥満の方は血糖が高い傾向にありますが、運動により、血糖、血圧、血清の脂質の改善もみられます。運動の前後には準備運動や、整理運動、ストレッチ体操などを行い、徐々に運動量や運動強度を上げることが肥満治療に効果的です。

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次回は高齢者と小児の肥満症についてお話しします。