脳卒中について。その50 【脳卒中予防十か条の7】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 運動する際の注意点

 前回(脳卒中について。その49)と2020年4月号(脳卒中について。その22)で運動療法についてお話ししましたが、さらに、運動をする上での注意点などについてお伝えします。

 脳卒中や心筋梗塞の危険因子となる糖尿病治療の基本になるのが運動療法です。

 1.運動の効果

 おさらいになりますが、運動の効果は

 1・血糖値を下げる
 2・インスリンの働きがよくなる
 3・体重減少、肥満の解消や防止
 4・高血圧、脂質異常症の改善
 5・心肺機能の向上
 6・筋肉の衰えや萎縮(サルコペニア、フレイル)、骨粗しょう症の予防
 7・運動能力が向上し、筋力や体力増強
 8・認知症、がん、うつ予防
 9・ストレス発散、解消
 10・死亡率を下げる
 11・急に起こる心血管疾患の発症率を下げる

 2.運動時の注意 ?

 (1)運動を制限するか禁止した方が良い場合

 運動をする日の体調や血糖コントロールが不良の場合、また、合併症や心臓病がある場合などは、運動を控えた方がよい時があります。

 例えば、空腹時の血糖が250㎎/dl以上の血糖コントロールが極端に悪い場合や進行した腎不全、糖尿病性網膜症、重い自律神経障害がある場合、心肺機能が低下している場合、発熱時、感染症がある場合、足や足の爪の変形、たこ、潰瘍、壊疽などがある場合は、運動は制限されます。

 心配な方は主治医や看護師、理学療法士、トレーナーなどのアドバイスを受けて、必要あれば心電図、血液検査、レントゲン検査などのメディカルチェックを受けて運動療法の可否を判断しましょう。

 また、糖尿病の方は、運動は食後 1~3時間後が良いとされていますが、特に決まりはありません。ただし、インスリンや経口糖尿病で治療している方は、空腹時に運動すると低血糖になる可能性がありますので、注意が必要です。

 低血糖の症状としては、めまい、冷や汗、動悸、ふるえ、脱力感、空腹感などがあります。運動中や直後、場合によっては遅発性低血糖といって、運動後6~15時間内に症状が出ることもあります。

 また、運動中に関節や筋肉に痛みやつるような異常を感じたり、胸の痛み、胸が締め付けられるような違和感が出た時、急に脈拍が速くなったり、途切れるような時には運動を中止しましょう。

 (2)自分の足に合ったウオーキングシューズを選ぶ

 きつかったり、当たる部分があると、靴ずれなど、足のトラブルの原因になります。シューズ選びのポイントは

 1・かかとやつま先が当たらない
 2・つま先に少し余裕がある
 3・指が動かせる
 4・かかとがしっかりと包み込まれている
 5・足の甲に強く当たらない
 6・靴底が厚い素材であり、クッション性がよい
 7・中敷きが土踏まずに合っていて、衝撃吸収性がある

 これらを確認するためには、必ず試着して、履き心地を試すことが大切です。また、運動時にはシューズの中に小石や異物が無いかを確認すること、緩めの靴下を必ず履くこと、かかとやつま先が当たっていないかと確認することが重要です。

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 (3)安全に楽しく運動を続けよう

 服装は運動に適したものを選び、気温、気候に合わせましょう。また、温度調節ができる服装が適しています。極端に暑い日や寒い日の運動は避けて、起きたばかりの早朝は無理をしないようにしましょう。また、運動する前には、十分な準備運動やストレッチを行うことが大切です。水分は、喉が渇く前にこまめに補給することが重要です。特に熱中症には十分に気を付けなければなりません。体調不良の時には運動は避けて、回復したら再開しましょう。

 特に脈拍が極端に速かったり、遅かったり、不整脈がひどいと感じたり、血圧が極端に高い場合は無理をすると危険です。健康のためやリラックスのためにせっかく運動しても、かえって体調を悪化させては何の意味もありません。前述したように糖尿病で薬物治療を行っている方の場合は、低血糖になることに注意する必要があるので、運動量の多い場合には、補食をとる、あるいは、運動前後で薬の量を減らすなどの注意が必要です。主治医と十分に相談することが大切です。

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 次回は、脳卒中予防十か条の9「万病の引き金になる太りすぎ」について解説します。