脳卒中について。その48 【脳卒中予防十か条の7】

 
公立藤田総合病院・佐藤昌宏 福島県立医科大学医学部大学院卒業、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科。2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授

 食事の塩分・脂肪控えめに

 今回は、脳卒中のリスクになる高血圧や動脈硬化を予防するための食事についてお話しします。

1.塩分

 食塩の中のナトリウムは生命維持のためには必須のミネラルの一種で、主に細胞の外の体液(細胞外液)に含まれています。もちろん、口から食塩の形で摂取されます。厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準」(2020年版)によると、ナトリウム(食塩)の過剰摂取が血圧上昇と関連があることは、多くの研究によって指摘されています。食塩摂取量の少ない集団(極寒地に住む先住民など)では、高血圧の発症頻度は非常に低いのですが、逆に食塩摂取量の多い集団(例えば東北地方の住民)では高血圧の発症頻度がとても高いことが示されています。

 塩分摂取過剰は高血圧の発症だけでなく、脳卒中、心臓病、腎臓病の原因になります。なぜ食塩摂取量が多いと高血圧になるのでしょうか。それは、塩分を多く取ると、血中のナトリウムの濃度が上昇します。そこで体は水分補給を指示します。水分が補給されると、体の循環血液量(体の中を流れている血液量)が増加します。その血液を押し出すために、心臓はより強い力で押し出す必要があります。その結果、血圧が上昇します。

 では、日本人は一体どれぐらいの量の食塩を1日に摂取しているのでしょうか。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(令和元)によると、食塩摂取量の平均値は10・1グラムであり、男性10・9グラム、女性9・3グラムです。この10年間で見ると、男性では有意に減少、女性では平成21~27年は有意に減少、平成27~令和元年は有意な増減はありませんでした。

 食塩摂取源は世代で異なるようで、若い人はインスタントラーメン、カレールーやハム、ソーセージなどの加工品から、年配の人は漬物や調味料から塩分を多く取っているといわれています。年齢階級別では、なんと男女とも60歳代が最も高いようです。福島県民の1日の食塩摂取量は、平成28年のデータによると男女ともに全国トップクラスで、全国平均より男性で1・1グラム、女性で0・7グラム多く摂取しています(図1)。

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 「日本人の食事摂取基準」では、食塩摂取量は減少傾向にあることと、各国のガイドラインを考慮すると、生活習慣病予防のための1日の食塩摂取目標量は次のように設定されています。

18歳以上の男性:7・5グラム未満
18歳以上の女性:6・5グラム未満

 さらに高血圧の予防、治療のためには6㌘未満が望ましいと考えられることから、「高血圧治療ガイドライン」(2019年)でも、高血圧及び慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目的とした量として6グラム未満と設定されました。減塩食のポイントを(図2)に示しました。参考にしてください。

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2.脂肪

 以前、動脈硬化予防に役立つ食事として日本食パターンの食事「ザ・ジャパン・ダイエット」をご紹介しました。塩分以外にも、食事の脂肪の取り過ぎが動脈硬化を進行させます。食事に含まれる油にも、体に良い油(不飽和脂肪酸)と体に悪い油(飽和脂肪酸)があります。

 「脂肪酸」とは、分かりやすく言うと「あぶら」のことです。脂肪酸はグリセリンやコレステロールと同じ脂質の一つであり、中性脂肪を構成する成分でもあります。悪玉コレステロールであるLDL-コレステロールの値が高くなる原因としては、前回お話ししたように食事中の飽和脂肪酸の取り過ぎが挙げられます。飽和脂肪酸はバター、生クリーム、肉の脂身などに多く含まれています。これらの飽和脂肪酸は冷蔵庫で固まっていることが多く、逆にLDL-コレステロールを下げる効果のある不飽和脂肪酸は、サラダ油のような植物性の油や背の青い魚に多く含まれており、液体の油です。

 動脈硬化を予防したり、悪化することを防いだりするには、飽和脂肪酸の摂取を少なくし、なるべく不飽和脂肪酸を摂取することが大切です。また、血中の中性脂肪の値が高くなると動脈硬化が進行します。中性脂肪は人や動物にとって重要なエネルギー源であり、脂溶性ビタミンや必須脂肪酸の摂取にも不可欠ですが、取り過ぎると体脂肪として蓄えられて肥満を招き、動脈硬化が進行します。中性脂肪の値が高くなる原因としては、甘いもの、お酒、油もの、糖分など摂取カロリーの取り過ぎが挙げられます。砂糖の入った飲料水を飲む習慣のある人も気をつけなければなりません。

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 次回は、体力に合った運動についてお話しします。