脳卒中について。その24

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その24
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。糖尿病の記事に対する反響が多かったので、今回は糖尿病の合併症(図1)についてお話します。

 1.動脈硬化性心血管病

 もちろん、脳卒中が糖尿病の主な合併症のひとつとして今までお話をしてきました。脳卒中は糖尿病が引き起こす大血管の障害【動脈硬化】によるものです。その他に、この動脈硬化が引き起こす合併症が狭心症や心筋梗塞です。心臓を養っている冠動脈が動脈硬化により、狭窄や閉塞することで心臓のポンプの役割が障害されたり、不整脈を呈し、生命の危機に陥ったりします。また、下肢の動脈硬化にて動脈が閉塞して、下肢が壊疽(組織が腐ってしまうこと)になって歩行不能となったり、場合によっては下肢を切断しなければならなくなったりする慢性動脈閉塞症があります。

 2.三大合併症

 糖尿病は、前記の大血管以外に微小血管の障害(眼、腎臓、神経)も引き起こします。

 (1)糖尿病性網膜症

 網膜とは、眼球の奥に広がっているスクリーンのことで、瞳孔を通って眼の中に入った光が焦点を結ぶところです。網膜には細かい血管が張り巡らされています。糖尿病性網膜症(以下網膜症)は、持続する高血糖に直接暴露される眼の網膜血管が機能的にも器質的にも障害されて、二次的に周囲組織が障害される血管原性病変です。放置してしまうと極めて重篤な視覚障害を来します。しかし、網膜症は進行しても自覚症状がない場合が多く、硝子体出血や網膜剥離により初めて自覚されることが多いようです。つまり、重症になるまで自覚症状がないため、糖尿病の診断が確定あるいは疑わしいとされた段階で早期に眼科を受診して、診察を受けることが大切です。診断は眼底検査や蛍光眼底検査などです。治療はもちろん、血糖のコントロールが基本ですが、網膜光凝固術や硝子体手術などがあります。

 (2)糖尿病性腎症

 腎臓の主な働きは、血液の中の不要なものを尿中に排出し、血液をきれいにすることです。その働きは腎臓内部に約200万個存在する、細い血管の集合体である糸球体で行われています。高血糖で糸球体内の細い血管が障害され糖尿病性腎症が起こると、血液をきれいにする働きが低下してしまいます。腎臓の働きが極端に低下すると、血液中に不純物がたまり、生命に危険が生じます。そうなると透析療法を始める必要に迫られます。現在、国内では毎年新たに3万人以上の方が透析療法を始められていますが、そのうち約4割が糖尿病性腎症によるもので、透析が必要になる原因のトップとなっています。血液透析になると週3日は病院に通わなくてはならなくなり、日常生活に大きな影響が出ます。治療はやはり厳格な血糖コントロールと高血圧の管理となります。さらにタンパク制限や塩分制限などの食事療法が大切になりますし、適切な運動療法も必要です。。

 (3)糖尿病性神経障害

 糖尿病性神経障害は、高血糖によって神経が障害されることで起こります。神経は全身にくまなく張り巡らされていますから、その影響は全身に及び、多彩な症状となって現れ、患者さんを悩ませます。さまざまな症状の中でも特に患者さんに苦痛を与えることが多いのは、足や手のしびれ・痛みです。痛みのために睡眠不足になったり、気持ちが落ち込んでしまったりする患者さんも少なくありません。治療開始後に神経の働きが戻ることで一時的に症状がひどくなることもありますが、それは回復の一過程ですので、根気よく治療を続けてください。しっかり治療すると、しびれや痛みは軽快します。諦めずに継続することが大切です。

 3.その他の合併症

 その他の合併症としては歯周病、眼の白内障、種々の感染症、骨粗しょう症、がんの合併、認知症などがあります。また、糖尿病に肥満、高血圧、脂質異常症(高脂血症)などが併発すると、合併症が生じやすくなったり悪化しやすくなったりします(図2)。これらの症状がある方は、一層厳密な血糖コントロールが必要になります。

 糖尿病は自覚症状がなくても、見えないところで合併症が進行していきます。気がついた時には合併症のため、日常生活に支障が生じているということが少なくありません。しかし、きちんと血糖値をコントロールできれば、合併症を予防できることがわかっています。そのためにも、しっかり治療を行い、きちんと血糖値を下げることが必要です。

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 次回は糖尿病の方が病気になった時の対処法や大事な足のケア(フットケア)についてお話します。

月号より