脳卒中について。その25

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その25
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回は糖尿病の方が病気になった時-シックデイの対処法についてです。

 1.シックデイとは

 糖尿病の治療中に発熱や下痢、嘔吐などの糖尿病以外の病気にかかることがあり、食欲不振によって十分に食事ができない時をシックデイと言います。シックデイ時には、血糖値が乱れやすくなります。血糖コントロールを続けていても血糖値は高くなりやすく、そのために脱水やケトアシドーシス【※】という危険な状態になってしまうこともあります。後で述べるシックデイ時のルール=病気になった時の対策をよく確認しておきましょう。風邪や発熱、腹痛、吐き気、下痢などの病気にかかると、それらは全て身体にとってストレスとなります。そんな時、身体の中ではストレスホルモンが分泌され、異常事態に対処しようとします。しかし、ストレスホルモンは血糖値を上げる作用があるので、糖尿病の患者さんの場合、血糖値が高くなります。シックデイには、さらにインスリンの分泌や働きが悪くなるので、驚くほどの高血糖になることがあります。

 ※:血糖値を下げる働きをするインスリンの作用や量が不足し、十分に血糖値が下がらないことで起こります。血糖をエネルギー源として利用できないため、身体はエネルギー不足になってしまいます。そのため、かわりに脂肪がエネルギー源として分解されて、使われてしまう緊急事態です。血糖値は250㎎/dL以上まで上昇することがあり、ひどい場合は意識がなくなる昏睡状態に陥ります。脂肪の分解によってケトン体という物質が血液中に増え、血液が酸性に傾き(アシドーシス)、高度の脱水状態になります。

2.高血糖のために抵抗力が落ちてしまうシックデイ時の悪循環(図1)

 何らかの病気のために高血糖になると、身体の抵抗力が落ちるので、ますます病気が悪化したり回復が遅くなったりしてしまいます。加えて発熱や下痢が続くと、体内の水分が失われて脱水状態になり、血液が濃くなり血糖値も一層高くなります。糖尿病でない人ならすぐに快方に向かうような軽い病気も、糖尿病に重なって発病すると、治りにくくなります。また逆に、食事の量が減るために低血糖になることもあります。それは、糖尿病の薬物療法をしている患者さんで、病気のために普段通りの食事を取れない時に、いつもと同じ量の薬を使用した場合に起こりやすくなります。

 3.シックデイ時の基本的対処法(図2)

【シックデイ時のルール・その1 】

 体調不良の際に大事なことは、自分の身体の状態を冷静に把握することです。その上で、しばらく様子を見るか、薬の量を加減するか、かかりつけ医ではなく近くの医療機関を受診するか、主治医に連絡を取るか、などの対策を立て、適切だと思う行動を判断することです。できれば体温、血圧、心拍数、血糖、尿糖、食事量、体重などを自分でチェックすることが大切です。これらは記録しておき、医療機関を受診する際に医師に見せてください。普段から血糖の自己測定をしていると、シックデイにも病状がより正確にわかって対処法を考えやすく、心強い味方となります。血糖は簡単に自宅で測定できますので、主治医に相談してみてください。ただし、著しい高血糖(およそ350㎎/dL以上)だったり、39度以上の発熱、または38度ぐらいの熱が長引いたり、息苦しさが続いたり、食事がほとんど取れない、下痢、嘔吐が持続する、などの症状があった場合には、その日のうちに医療機関を受診してください。

【シックデイ時のルール・その2】

 症状が軽い場合は、2日間程度、自宅で様子を見ても構いません。その場合、体力の消耗を防ぎ、身体の抵抗力を高め、脱水やケトアシドーシスなどの危険な状態にならないように注意してください。つまり、急性期の今の病気を治すことに専念して、身体を休めて体力を温存することが大切です。それには小まめに水分を補給しましょう。特に熱がある時や下痢をしている時は、努めて水分を摂取してください。高齢の方は喉の渇きを感じにくいことがあります。喉が渇いていなくても2~3時間置きにお茶やお湯を飲むようにしてください。また、食欲がない時は、無理にいつも通りの厳しい食事療法を守る必要はありませんが、消化の良い炭水化物(おかゆやおじや、うどんなど)を中心に、なるべくエネルギーを確保してください。食事が取れない時はジュースやスポーツ飲料でも良いので、糖分を口にしてください。糖分を摂取しないほうがかえって危険になることがあります。

【シックデイ時のルール・その3】

 血糖値の上下動が激しいシックデイには、薬の量を変えたほうが良い時もあります。特にインスリン療法を行っている患者さんは、血糖の自己測定結果を参考に単位を変更する方法を、事前に確認しておきましょう。薬物療法をしている場合は、食事量によって内服薬を半量に減量したり、中止したりすることも考慮します。
 ここに記した方法はあくまで目安ですので、実際にどのように対処するかについては、主治医の指示を受けてそれを守ってください。
 シックデイは糖尿病の治療を行っている方では誰でも起こる可能性があります。症状や正しい対応を理解し、いつ起こっても適切に対処できるように前もって準備しておくことが大切です。対応の知識を十分に身に付け、より良い血糖コントロールを目指しましょう。

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 次回は糖尿病のフットケアについてお話します。

月号より