脳卒中について。その27

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その27
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。糖尿病の記事に対する反響が多かったので、今回も糖尿病の合併症で怖い腎障害、糖尿病性腎症についてお話します。

1.糖尿病腎症って何?

 糖尿病の三大合併症のところでもお話したように、腎臓は尿を作り、血液中の不要なものを尿中に排せつし、血液をきれいにする臓器です。腎臓は内臓の背中側に左右1個ずつあり、空豆のような形をしています。その働きは腎臓内部に約200万個存在する細い血管の集合体である糸球体で行われています。
 高血糖で糸球体内の細い血管が障害され糖尿病腎症が起こると、血液をきれいにする働きが低下してしまいます。さらに働きが極端に低下すると、尿が作られなくなり、血液中に不純物がたまって生命に危険が生じます。そうなると血液透析療法をしなければならなくなります。
 現在国内では毎年新たに3万人以上の方が透析療法を始められていますが、そのうち約4割が糖尿病性腎症によるもので、透析療法が必要になる原因の第1位になっています。糖尿病性腎症は糖尿病罹患後約10-20年経過してから発症することが多いです。
 血液透析になると週3日、病院に通院しなければなくなり、日常生活に大きな影響が出ることはもちろん、透析をすることによる合併症も出てきます。これは後にお話します。

2.糖尿病腎症の病期

 腎症の時期により、症状の出方が違います。どのように病気が進行するかについて解説します。

【第1期.早期腎症期】

 腎臓の糸球体がわずかに障害され、本来、尿に排せつされないタンパク質の一部のアルブミンが尿検査で見つかる段階です。自覚症状は全くありません。血糖と血圧のコントロールに気を付けるとともに、タンパク質をとり過ぎないようにして、病気の進行を防ぎます。

【第2期.顕性腎症前期】

 尿タンパクの検査が陽性の段階ですが、腎臓はまだ比較的よく働いていて、この時期も自覚症状は全くありません。血圧をより厳格にコントロールし、タンパク質の摂取量を抑えます。また、激しい運動は控えます。

【第3期.顕性腎症後期】

 腎機能の低下が顕著になった段階です。この時期からむくみが現れる方もいます。十分な降圧治療、塩分制限、タンパク摂取量の管理を続けるとともに、疲労を避けるために仕事内容・時間への配慮が必要になります。

【第4期.腎不全期】

 腎臓の働きがさらに低下した状態です。厳格なタンパク摂取制限などの治療を続けますが、尿毒症の危険が出てくれば透析療法を始めます。

【第5期.血液透析期】

 腎臓の働きはほぼ廃絶、消失して血液透析を行わなければならなくなった時期です。
 腎症1~2期の期間は非常に長く、10~20年かかります。しかし、3期以降になると、進行は極めて速くなり、2~5年で透析に至ります。最近はタンパク尿が出現した後に腎機能が低下する古典的な糖尿病性腎症に加え、タンパク尿は少量で腎機能のみが低下する非典型的な糖尿病性腎症を含んだ糖尿病性腎臓病(DKD)が増えてきています。これは糖尿病に加え高血圧、加齢、腎炎などが影響して腎不全に陥ります。
 治療法は血糖・血圧・脂質コントロールで、食事療法が基本です(図1)。
 脂質異常も腎障害を進展させますので、脂質制限食にします。その他、禁煙や適度な運動などの多角的療法が腎障害抑制に有用であるとの報告があります。
 食事療法:塩分制限(6g/日未満)を行い、低タンパク食を基本とします。

3.透析患者さんの合併症

 ①透析そのものが原因となって、透析にからだが慣れていないために起こる合併症(短期的合併症)と、②透析を長く続けていることが原因で起こる合併症(長期的合併症)の2種類があります。ここでは、代表的な長期的合併症について説明します。
 透析患者さんの死亡原因を見みると、その1~3位を「心不全「感染症」「悪性腫瘍(がん)」が占めています(図2)。一般人では「悪性腫瘍」が第1位ですから、透析患者さんでは心臓の機能の低下、脳卒中・心筋梗塞などの心血管イベント(心臓や血管の病気)と感染症に特に注意が必要になります。
 透析患者さんは尿が出ないため、水分や塩分が身体にたまり、それを循環させる心臓には大きな負担がかかって、働き過ぎの状態になっています。働き過ぎた心臓は心臓疾患の原因となり、心臓の機能が低下して、最後には心不全に至ります。心不全は常に透析患者さんの死因の第1位を占めています。また、透析患者さんは血液中のリンやカルシウム濃度に異常が出ることも影響して、動脈硬化が進みやすい状態にあります。動脈硬化が進むと、脳卒中や心筋梗塞などさまざまな病気を引き起こします。
 これらを予防するには、食事や水分・塩分の過剰摂取を控え、心臓に余分な負担を掛けないように注意することと、たまった水分や塩分を透析で適切に除去することが必要です。心臓の過剰な負担を防ぐためには、透析後の適切な体重(ドライウェイト)を守ることも重要です。また、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの病気をもっている方は服薬を欠かさずに、こうした病気を上手に治療することも大切です。

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 次回は糖尿病と認知症についてお話します。

月号より