脳卒中について。その28

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その28
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。今回は糖尿病が関係している認知症についてお話します。認知機能とは、記憶、知識、言語、理解、思考、判断などの総称です。
 九州大学が生活習慣病の原因究明と予防を目的に福岡県久山町で行っている「久山町研究」という疫学調査があります。疫学調査とは集団を対象として、病気の頻度、その分布に影響する因子を統計学的に研究する学問のことです。その研究では、高齢糖尿病患者では認知症の合併が多いことが明らかになっています。糖尿病のある人ではそうでない人に比べ、アルツハイマー型認知症や血管性認知症の発症リスクが2から最大4倍に上昇するといわれております。これらについて説明します。

1.認知症

 厚生労働省の全国調査によりますと、2012年時点での65歳以上の高齢者における認知症の有病率は15%で、患者数は全国で462万人と言われています。その数は徐々に増加して2025年には約700万人に達すると見込まれています。そのため、認知症の予防、治療、介護を含めた総合的対策を講じなければなりません。認知症の詳しいことについてはいずれ、お話をしたいと思いますが、ここで簡単に認知症について説明します。
 認知症とは一度獲得された認知機能が、何らかの原因でその機能が低下して、日常生活や社会生活に影響を及ぼしてしまうことを言います(図1)。その原因はアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、その他になります(図2)。一番多いのがアルツハイマー型認知症です。これは脳にβ(ベータ)アミロイドやタウタンパクという異常なタンパク質が蓄積して、神経細胞が破壊されて脳が萎縮してくるものです。二番目に多いのは、脳血管性認知症といい、これまでお話してきた脳梗塞や脳出血などの脳卒中が原因で、神経細胞が死んでしまう病態です。
 実はアルツハイマー型認知症も脳血管性認知症も糖尿病が大きく関与しているのです。

2.アルツハイマー型認知症と糖尿病

 糖尿病になるとアルツハイマー型認知症で蓄積されるβアミロイドという異常タンパク質の産生が増加したり、あるいはタウタンパクがより蓄積してしまったりすることにより、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高まると言われています。これらは本来、自然に分解されるものですが、高血糖が持続したり、高齢になったりすると分解する働きが低下し、脳にたまりやすくなり、認知機能を低下させます。
 久山町研究では糖尿病のある人はない人に比べ、アルツハイマー型認知症の発症が2.1倍と有意に高率でした。

3.脳血管性認知症と糖尿病

 糖尿病は頸動脈や頭蓋内の主幹動脈などの大血管障害を引きこして、脳梗塞を発症してその結果認知機能低下を引き起こすほか、脳の微小血管を障害して脳全体の血液循環障害を起こすことにより、認知機能を低下させます。特に脳細小血管障害に伴う大脳白質病変・遂行機能障害が脳血管性認知症の主病態となります。血流障害が起きると、当然、神経細胞にとっては栄養不足となるほか、貯留したβアミロイドやタウタンパクが分解されず、神経細胞や血管に貯留してさらにアルツハイマー型認知症の合併にも関与してしまいます。久山町研究では糖尿病のある人はない人に比べ、脳血管性認知症の発症が1.9倍と有意に高率でした。
 また、食後の血糖値が高くなる「食後高血糖」が続くと、酸化ストレスや炎症、糖を燃やした時にできる有害物である「終末糖化産物」などが、脳の神経細胞にダメージを与えることも分かっています。恐ろしいことに、糖尿病の前段階である「耐糖能異常」の場合も、認知症のリスクは高くなるという研究結果も出ています。



4.認知症の予防

 糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病を予防すれば認知症の予防につながることも分かってきています。適度な運動、食生活の改善、禁煙などに取り組むことが大切です。運動はβアミロイドやタウタンパクをたまりにくくする事が分かってきました。
 運動はもっとも効果が高い予防法です。特にウォーキングなどの有酸素運動は、脳の血流を良くする効果があるほか、内臓脂肪を燃やし、血糖値や中性脂肪値を下げ、血圧を下げる効果もあり、いわゆる善玉のHDLコレステロールを高める働きもあります。1日30分の運動を週3日以上行うのが目安です。30分の時間をとるのが難しいという人は、10分を3回に分けて行っても効果があります。
 食事ではサバ・イワシ・サンマなどの青魚や納豆や豆腐などの大豆製品、そして緑黄色野菜を多くとることをお勧めします。緑黄色野菜に含まれるビタミンやポリフェノールなどは活性酸素によってうける神経細胞のダメージを減らす作用があると言われています。
 すでに生活習慣病がある場合は、その病気に対する治療を適切に行うことが、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の予防に役立つことが分かっています。もちろんそれが脳卒中の予防になることにもつながります。

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 次回は糖尿病と認知症についてお話します。

10月号より