【復興の道標・不条理との闘い】映像で描かれた福島 真摯に向き合う作品も

 
「新地町の漁師たち」より。漁に出て海を見つめるシーン

 「私も30歳まで生きられないの?」

 震災後、福島県や原発事故をテーマに多くの映画が作られた。誤解に満ちた表現や、政治色を前面に出した展開など、県民にとって見るに堪えない作品も少なくない。2013(平成25)年、架空の地方都市を舞台に原発事故を題材にした映画が公開された。

 この映画の宣伝文には「事実を元にシナリオを執筆」したとある。主人公の一家は原発から60キロ以上離れた地域に住むが、大地震で原発が爆発して避難勧告が出る。中学生の次女は鼻血が止まらなくなり、入院。大学生の長女も大量の鼻血が出て、母親に向かって泣き叫ぶのが、冒頭のせりふだ。

 同じ年に公開されたドキュメンタリー映画。日本に住む外国人監督が、県内で突撃取材を繰り返していた。

 学校の校舎内で「こんな風の強い日に子どもを外で遊ばせていいのか」と教職員にくってかかる。困惑する教職員が許可のない撮影を穏やかにたしなめると、監督は「そんなことより、どっちが大きい問題なのか」と声を荒らげて逆上した。

 しかし、時間の経過とともに県民と真摯(しんし)に向き合う映像作家も増えた。ドキュメンタリー映画「新地町の漁師たち」(福島市で4月公開予定)もその一本だ。福島市の映画館「フォーラム福島」の支配人・阿部泰宏(53)は「漁師さんたちの痛みやジレンマが、私たち内陸部に住む県民にも伝わってくる」と評価する。

 映画は監督の山田徹(33)が、新地の漁業者を3年半にわたって記録した。汚染水の海洋流出問題を巡る交渉シーンを主軸に据える。漁師たちは漁ができない怒りや悔しさをぶつける一方で、カメラの前で本音をつぶやき、時には屈託のない笑顔も見せる。

 山田は「(撮影を始めた)当初は物語の終着点が見いだせなかった」と明かす。撮影を続けても浜に変化はない。転機は13年に始まった試験操業だ。生き生きと漁をしている姿に感動した。「彼らの願いは海に出て漁をすることだと初めて気づいた。勝手な思い込みはやめて、起こった出来事をしっかり記録しようと思った」

 国内歴代興行収入ランキング4位、240億円を超える大ヒットとなったアニメ「君の名は。」にも東日本大震災の影響が見える。

 物語の中盤、自然災害のテーマが浮かび上がる。監督の新海誠(44)は11年7月、前々作「星を追う子ども」の舞台あいさつでフォーラム福島を訪れた際に「東日本大震災は大きな衝撃だった。自分に何ができるのかをずっと考えている」と語っていた。

 阿部は「発生直後ではなく5年、10年としばらく時間を置いてから動き始める映像作家もいる」と言う。「これまでの『福島はかわいそう』という単純な構図とは違って、彼らには新しい視点からのメッセージを発信してほしい」(文中敬称略)