患者さんが歯科通(しかつう)なわけ

 
あなたの笑顔    元気をサポート
 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。塩田博文歯科(棚倉町)の塩田博文先生が担当する歯の健康シリーズのスタートです。
患者さんが歯科通(しかつう)なわけ
歯科医師 塩田 博文先生
1980年に神奈川歯科大学を卒業。同年、故郷の棚倉町に塩田博文歯科を開く。95~96年、日本歯科医師会生涯研修セミナー「無歯顎の臨床」講師。2002年より塩田義塾塾長。「実際的総義歯づくり」(わかば出版)、「歯が痛くない時読む本」(砂書房)など著書多数。
 
 

【プレゼントG】塩田先生お薦めの本を5人に。 絵本『そうだ。歯医者さんへ行こう』 絵:さとう有作 文:ごとうゆき 監修:福重真佐子 kira books.刊 B5判/32頁 オールカラー 定価1,620円(本体1,500円+税) ※応募方法はP.18をご覧ください。
 子どもの歯を守るのは、世話をする大人の役目。その大人をサポートするのは歯科の役目です。本書をとおして「歯がかけがえのないもの」であることに気づいていただき、口腔ケアに取り組むきっかけとなれば、と願います。(ごとうゆき)

 このコーナー早いもので10回目となります。ありがたいことに発刊されると「先生!読みましたよ」と笑顔であいさつしてくださる患者さん。毎月書くというのは大変ではあるのですが、元気にさせてくださいます。
 もう10回も書きますと、書くネタに困ってしまうのではないかと心配される方もあろうかと思いますが、「この次も期待してますヨ」と付け加えられるファン?がいらっしゃれば、頑張らなければならなくなります。
 さて、何を書こうかと悩んでいる私ですが、良いものを書こうと思いますとやはり辛いです。ぼんやり、歯と長寿にまつわるお話でも書こうと思っておりましたが、それは次号に先送りしまして、今回は治療中の面白い?エピソードを綴ってみることにします。

転院をするのには理由がある

 歯科医院には来たくない、行きたくないという方が正常?ですので、その来院動機を時に尋ねることがあります。もちろんそのきっかけは「痛い」というのがほとんどで、耐えられなくなって仕方なくといったところです。
 ある日、遠くからいらっしゃった患者さんに伺うと、「○○先生が居なくなったから」と話されました。先生が亡くなられ閉院されたので、これまた仕方なく?来られたようです。
 歯科というのは常連率が一番高い職業であると博報堂の調べを読んだことがありますが、床屋さんやホテル等を抜いて堂々一番とのことですので、なかなかチェンジングしないのだそうです。京都で言われている一見さんお断りではないのですが、皆様常連なのです。  この患者さんのように先生が亡くなってしまえば仕方なく別の所というようになります。転院というのはいろいろな事情があります。転勤、転校などやむを得ない事情もありますが、時に前医への治療の不満等がある場合もあります。
 もともと行くのがイヤな所ですので、注射はされるし痛くされたり、揚げ句は抜かれたりというと、とても続けられないといったところです。こういう敬遠されがちな仕事ですので、私たちも心して対応しなければなりません。
 さて、この先ほど転院されていらっしゃった患者さんはスムーズに治療が進み、義歯を入れてさし上げた翌日、調子を見させていただけましたら、「先生、最高!!」というお褒めの言葉をいただきました。ほっとする一瞬で胸をなで下ろしました。
 この患者さんは型を採る時や噛み合わせを決める時、なんとなく慣れた対応で歯科医院慣れというか、ある種の「通」を感じさせるものがありました。

転院して来た本当の理由とは

 そして、予後の話を付け加えさせていただきます。この方やはり通の表現で「前の義歯は口の中で逃げたけど、今度のはまとまって噛めるようになった」。続けて「やっぱり噛み合わせが良くなったんだネ。口の中で踊らなくなった。キュウリでも何でも食べられるようになった」と話されました。
 こちらも気持ちが良くなりニッコリ対応しておりましたら、患者さんはもう話が止まりません。「娘が○○先生の所で学生時代からアルバイト勤めしていたんだよ。その娘が義歯は古い先生でないとダメなんだよと言っていたので、先生の所に来たんだ」と本当?の理由を話されました。
 「やっぱりハゲてないとダメと言ったんですか」と私が話を返しましたら二人で大笑い。こういう経験をさせていただくと、たまたま来院されたということでなく、選ばれたということにも感謝することが出来ます。
 そして、その患者さんはよほどのことがない限り、転院はされないということも知りました。ともすると患者さんが多くなりますと、感謝どころか時にストレスになったりもします。
 ありがたいことに混んで予約時間を守ることが出来ない時、「先生、体に気をつけてください」と労いをしてくださるありがたい患者さんもいらっしゃいます。

追記

 今回は長く歯科雑誌の編集に携わっていた方が、患者さん向けに書かれた絵本を紹介させていただきました。これを読まれましたら、あなたも「歯科通」になられるかもしれません。

参考文献
 福島保険医新聞 2009.7.25 P3「患者さんが義歯通な訳」 塩田博文

10月号より