脳卒中について。その29

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その29
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。今回は糖尿病が関係している歯周病についてお話します。口の中の病気にも糖尿病は深く関わります。

 1.歯周病って何?

 歯周病は、細菌の感染による歯周組織の慢性的な炎症であり、糖尿病では重症化しやすいと言われます。歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌が停滞し(歯垢の蓄積)、歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、腫れたりします(痛みはほとんどの場合ありません)。そして、進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、血や膿が出てくることもあり、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり、最後は抜歯に至ってしまいます。歯周病は、成人が歯を失う最も多い原因です。日本の40歳以上では半数以上に認められ、患者の割合は年齢とともに増加します。
 歯周病の原因は歯の表面に付着している「プラーク」、いわゆる磨き残しの歯垢です。プラークは歯の表面に細菌が被膜を形成しバリアとなっており、「バイオフィルム」とも呼ばれます。このバイオフィルムは薬物の浸透を防ぐため、水や洗口剤などで口をすすぐだけでは除去できません。しかし、歯磨き(ブラッシング)で簡単に取り除けるため、後述のようにブラッシングが最も大切になります。

2.歯のトラブル(図1)

 例えば、口の中で下記の症状が出た場合には歯周病の可能性があります。
・歯ブラシの時に出血する
・朝起きたときに歯肉に違和感がある
・口臭を指摘された
・歯肉が下がって、歯が長く見えるようになった
・体調が悪くなると歯肉が腫れる
・歯の揺れを感じることがある
 「歯周病」には、炎症が歯肉に限局した「歯肉炎」と、歯を支えている歯槽骨が破壊されて歯を失ってしまう「歯周炎」があります。上の症状が複数当てはまると、「歯周炎」の可能性が高く、歯科医院での治療が必要となります。

3.歯周病と糖尿病の深い関係(図2)

 糖尿病の患者さんは、血糖値が高くなることで白血球や免疫に関わる細胞の機能が低下し(例えば殺菌能の低下など)、病原菌と十分に戦えない状態になることがあります。そのため糖尿病を患う方は歯周病になりやすいことが分かってきました。一方で、歯周病になると血糖コントロールが悪くなるとも言われています。ではなぜ、歯肉の炎症である歯周病が糖尿病に関わってくるのでしょうか。
 出血や膿を出しているような歯周ポケットからは、炎症に関連した化学物質が血管を経由して体中に放出されています。ポケットから出て血流に乗った炎症関連の化学物質は、体の中で血糖値を下げるインスリンの作用効果を減弱させます。そのため、糖尿病が進行・悪化しやすくなるのです。そして最近の研究では、歯周病の治療をきちんと行うと血糖値が改善するということも分かっています。



4.歯周病の治療

 歯周病は口の中全体の歯で同時に進行していくため、全ての歯で歯周ポケットの深さを計測するポケット検査や、プラークの付き具合の検査を行う必要があります。
 治療ではまず、ブラッシング指導により患者さん自身でプラークを取り除けるような練習を行います。プラークを形成する細菌が歯肉で引き起こしている炎症を減らすのが目的で、これは「プラークコントロール」と呼ばれ、歯周病治療の中心となります。その上で歯科医院を定期的に受診し歯周ポケットの中に付着しているプラークや歯石を超音波振動機器や手用器具を用いて取り除きます。これは「スケーリング」といい、歯科医療従事者が行う重要なプラークコントロールです。そうすることで歯肉の炎症をコントロールできればインスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールも改善するということが報告されています。もし血糖コントロールが悪い場合には、治療効果が出にくかったり、治療をすぐに行えなかったりすることもあります。治療を進めてよいか、歯科医だけでは判断できない場合には、糖尿病の主治医に確認してください。まずは歯科医にご自身が糖尿病であること、薬の治療を行なっていることなどを伝えてください。
 また、歯科治療後、治療に伴う痛みなどで食事が取れないこともあります。糖尿病薬の治療を行っている方で食事が取れない場合には、薬の調整が必要になることがあります。歯科治療を予定している時は糖尿病の主治医に伝えるようにしましょう

5.歯周病の予防

 歯周病は予防や治療が可能です。まず、歯周病の原因は歯垢ですから、それをためない、増やさないことが基本です。
・正しいブラッシング法で毎日実行。できれば1日2~3回歯磨きをします。歯の表面を歯垢のない清潔な状態にしておく事が何より大切なことです。
・歯肉の中まで入っている歯石を完全に取り除き、さらに根の表面を滑らかにして炎症を引き起こす細菌を徹底的に除去します。
・傷んだ歯肉、骨を治療して健康に近い歯肉にします。
・健康の保持のため歯科衛生士による専門的なクリーニングなどを定期的に受けましょう。
 歯周病をしっかり治療し予防すれば、糖尿病が軽快して、脳卒中の予防となります。

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 次回は、糖尿病の合併症として怖い心臓病についてお話します。

11月号より