脳卒中について。その31

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その31
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回は前回、最後にお話した心房細動について詳しく説明します。

 1.心房細動とは?図1

 心房細動とは、心臓の4つに分かれた部屋のうち、「心房」と呼ばれる上の2つの部屋で生じた異常な電気的興奮により小きざみに震え、十分に心臓が機能しなくなる不整脈のひとつです。心房細動があると心臓内で血の塊(血栓)ができやすくなり、それが、心臓の拍動で血液と一緒に心臓から飛び出して、脳血管を閉塞させる脳塞栓症を起こすことがあるため、脳卒中の第3のリスクになります。
 では、どうして心房細動になってしまうのでしょうか。この原因として、心房のどこか(多くは肺静脈の入り口部周辺)に新たな〝発電所〟ができて(あるいは胎児の頃に持っていた発電所から)電気が漏れ出るためであり、それにより心房の中で不規則な電気の流れ(旋回)が起こる、という仕組みが考えられています。
 心房細動になると心房は1分間に300から500回ほど興奮し、細かく動きますが、適当に間引かれて心室に伝えられます。そのため心房細動時には不規則に電気が心室に伝えられ、心臓は全体として1分間に60回から200回の頻度で不規則に拍動します。ですから脈はまったくバラバラで打ち、動悸がして息苦しくなり、時にはめまいや胸痛などの症状が出る場合があります。ただ、心室に伝わる脈がそれほど速くない場合には、まったく症状のない患者さんもいます。

 2.心房細動の症状

 症状としては、動悸(どきどき)がしたり、めまいや脱力感、胸部不快感、呼吸がしにくいと感じたりすることもありますが、自覚症状のない方もたくさんいます。加齢にともなって起こりやすくなるといわれていますが、働き盛りの若年の方にも起こり得る不整脈です。
 心房細動自体は死に至る病気ではありませんが、放置しておくと「脳梗塞」や「心不全」を招くことがあり、注意が必要です。心房細動は、時々発作の起こる(つまり心房細動が出現する)「発作性心房細動」と、心房細動の状態がずっと続く「持続性(慢性)心房細動」に分けられます。特に慢性になると無症状の方が多いようです。発作性心房細動の場合には治療することで心房細動が治ることもあります。治療については次回、詳しくお話します。

 3.どのような人が心房細動になるの?

 心房細動は70歳を超えると、病気のあるなしに関係なく数~10%の人に現れてくる不整脈で、原因は心房の筋肉の一種の老化現象ではないかとも考えられています。その一方で若い人にも出ることがあり、それらの多くは体質的な理由で起こり、また、高血圧、肺疾患、甲状腺機能亢進症、弁膜症、糖尿病、心臓の手術後ではより生じやすくなります。
 また、アルコールを多く飲む人もなりやすいと言われています。心房細動の見つけ方は、手首の内側の親指側に3本の指をあて、脈をとります。脈が時計の秒針のように規則正しく打っていれば正常です。脈が不規則に乱れたり、速くてとりづらい場合には心房細動が疑われます。かかりつけ医を受診し、心電図検査を受けてください。必要に応じて、24時間心電図や心臓超音波検査が必要になります。
 4.心房細動の合併症

 Ⅰ.心原性脳梗塞や全身性塞栓症

 脳梗塞は、脳の血管が狭くなったり、つまったりして、脳に酸素や栄養が送られなくなるため、脳の細胞が損傷してしまう病気です。心房細動時には心房が細かく動くだけで、十分な収縮ができませんので、そこで血液が心房内でよどみ、血栓ができ、それが脳や全身に飛んでいって動脈が閉塞することがあります。特に、心房細動では大きな血栓が脳まで運ばれ心原性脳梗塞(図2)を引き起こすことがあります。心原性脳梗塞では、他の脳梗塞よりも広い範囲の脳がダメージを受けることが多いため、重症になりやすいという特徴があります。また、脳だけでなく、手足に行く動脈や内臓に行く動脈にも血栓が飛んでいく可能性もあります。
 そのため心房細動に対しては、脳梗塞を予防する目的で、血液を固まりにくくする薬剤(ワルファリンや直接経口抗凝固薬)が使用されることが多いです(抗凝固療法)。特に、高血圧、糖尿病、心不全や、脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往のある方、また高齢の方では、脳梗塞を起こす頻度が高いため、血液を固まりにくくする薬剤の服用が必要です。

 Ⅱ.心不全

 全身に血液を送り出す心臓(ポンプ)の力が不十分になることを心不全といいます。心房細動によって心拍の速い状態が続くと、心臓の収縮機能が低くなってしまい心不全になることがあります。心不全になると、息切れ、動悸、浮腫などが出現して、日常生活が制限され、時に命にかかわることがあります。そのため、予防・治療が大切になります。

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 次回も心房細動についてお話します。

月号より