脳卒中について。その34

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その34
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回も前回お話した心房細動の治療についての続きです。

 1.抗凝固薬内服時の注意

 心房細動による脳塞栓症を予防するためには、抗凝固薬が極めて有効であり、抗凝固薬の内服継続が必須ですが、副作用として出血の危険性があります。ワルファリンの場合にはプロトロンビン時間(採血した血液に試薬を入れて、凝固するまでに要した時間の国際標準比、PT―INR)を測定して、薬の効果が確認できるため、効き具合をみながら、効きすぎている場合には投与量を調節したり、一時的に休薬したりするなどの対応が可能になります。
 直接経口抗凝固剤(DOAC)の場合には効果を正確に表す血液中の指標が存在しないため、作用が強すぎた場合でもわかりにくく、出血の危険があるという懸念はありますが、ワルファリンよりおおむね出血の頻度は半分以下との報告があります。しかも副作用は内服開始後の1~2カ月以内に発生していることが多いため、内服初期はワルファリンと同様の頻度で血液検査と診察を行い、その時期を過ぎて安定期になれば、頻回の血液検査は不要になります。

 2.抗血小板剤との併用

 アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞、心筋梗塞、狭心症の既往がある患者さんが、抗凝固薬とは違う働き方で、血液をさらさらにして固まりにくくする抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど)を内服している場合、DOACを併用すると、さらに出血の危険性が高くなることがわかっています。
 抗血小板薬1種類と抗凝固薬を併用した場合、抗凝固薬1種類のみ内服した場合に比べて大出血の危険性は約1.5倍に高まります。さらに、抗血小板薬2種類と抗凝固薬を併用した場合、抗凝固薬1種類のみ内服した場合に比べて、大出血の危険性は約1.6~2倍高くなります。したがって、やむを得ず3剤併用が必要な患者さんは十分出血に注意する必要があります。

 3.抗凝固薬の休薬

 抗凝固薬を内服していて、胃や大腸、その他の組織検査を行う場合や手術を予定している場合、必ず主治医に伝えてください。処置によっては、あらかじめ抗凝固薬の内服を中止する必要があります。DOACを内服している方とワルファリン内服の方では内視鏡やその他手術などが必要な時の対応が大きく異なります。胃カメラ・大腸カメラで生検(胃や大腸の一部を採取して、顕微鏡で癌(がん)などがないか調べる方法)を予定している場合、DOACを内服中の方は前日まで通常通り内服したまま検査をすることができます。
 ワルファリンを内服中の方は、採血でPT―INRの値を確認して、多くの施設ではワルファリン内服を中止して、必要に応じて入院の上、ヘパリンという注射薬でワルファリン中止期間を代用する必要があります。検査・手術内容と抗凝固薬の種類によって中止すべきか否か、中止する場合の期間などが違いますので、主治医とよく相談してください。

 4.心房細動の根治治療

 抗凝固剤を内服することで、一部の方は転倒して打撲することで出血したり、消化管出血を起こしたりすることがあります。長期的に抗凝固剤を内服することでの副作用が問題になる場合は心房細動そのものを治す治療があります。それがカテーテルアブレーションです。
 アブレーションとは取り除くとか焼灼(しょうしゃく)するという意味で、足の付け根の血管からカテーテルを挿入して、心臓まで到達させて心房筋を焼灼する治療です。治療が成功すれば、心房細動は無くなり、抗凝固剤を中止することができます。
 最近になって、肺静脈付近から異常な命令が頻回に出ることによって心房細動が生じていることが多いことがわかってきました。カテーテルアブレーションにより、肺静脈の周囲を焼灼して(肺静脈隔離)、心房細動を根治できる場合があります。薬物による心房細動の治療がうまくいかない方、症状が強い方、発作性心房細動の方に行われるようになりました。施設や方法によって差はありますが、発作性心房細動であれば1回の治療で70~80%、再発しても2回目までの治療で80~90%近い成功率で行えるようになりつつあります。また、慢性心房細動であっても全例ではありませんがカテーテルアブレーションが有効な場合があります。前日に入院し、採血、レントゲン、心電図、および経食道心エコー(胃カメラの様な心臓超音波装置で心臓の中を観察)などを行います。
 当初は電気の発生部位の一つずつに高周波電流を当てて筋肉を焼く(火傷させて発生部位を取り除く)方法でしたが、うまくいかないことがわかりました。そこで、図1のように、右側2本と左側2本の肺静脈をまとめて、その周囲をリング状に焼き、電気が肺静脈から出て行かないようにする、つまり電気的に肺静脈を隔離する方法が行われるようになりました。
 現在では、4本の肺静脈の入口に順番に風船(バルーン)を押し当て、その内部を亜酸化窒素ガスでマイナス70℃前後に凍らせる「冷凍凝固バルーン法」が行われています(図2)。従来の方法よりも効率的に焼灼できるため、手技時間が短く、再発率も低いという成績が出ています。詳しい治療方法については循環器科医にご相談下さい。

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 次回は4番目のリスク、喫煙についてお話します。

月号より