新型コロナウイルス感染症について。その2

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
新型コロナウイルス感染症について2
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 今回も新型コロナウイルス感染症についてお話します。今回はウイルスの変異についてお話します。

1.変異(図1)

 ウイルスは自力で増えることができないため、ヒトなど他の生物の細胞の中に入り込み、自らの複製を作らせることで増殖(コピー)します。ウイルスは、小さな粒子の中に、自己増殖のための遺伝情報を持っています。
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAを遺伝情報として受け継がれていきます。ちなみに、ヒトはDNAで遺伝情報が受け継がれていきます。RNAはDNAに比べて子世代にコピーする際に、遺伝情報の変化、つまりコピーミスが起こりやすく、このコピーミスが「変異」に繫がります。ウイルスはヒトからヒトに感染を広げる中で少しずつ変異を起こしていきます。
 SARS-CoV-2は2週間に1カ所ほどの頻度で小さな変異が起こることが分かっています。小さな変異でもウイルスの遺伝情報の重要な部分に起こると、ウイルスの性質が変化することがあります。問題になるのは、
①感染の広がりやすさ(伝播性)つまり、感染力が増加
②引き起こされる病気の重さ(病原性)入院リスクあるいは入院時死亡リスクが上昇
③ワクチン効果の変化(免疫逃避)ワクチン効果が弱められること
 感染力が強い変異株が国内に入ってくると、次第にその変異株に感染する割合が増えて、最終的にほとんどが置き換わってしまいます。これまで国内では、最初に従来型(中国・武漢)が広がりましたが、その後、イギリスで見つかった感染力の強いアルファ株が入ってきて置き換わり、その後、南アメリカからベータ株、さらにインドから感染力の強いデルタ株が入りこみ、デルタ株に置き換わりました。現在では、アフリカから、さらに感染力の強いオミクロン株が世界中に広がり、1月上旬に入って国内でも感染拡大しています。

2.オミクロン株(図2)

 オミクロン株は基準株と比較して、スパイクタンパク質に変異がみられるもので、南アフリカで最初に確認されました。

【海外での発生状況】

 全世界でオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)の報告数ならびに報告国数が継続的に増加し、南アフリカ、イングランドやアメリカ合衆国では、デルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりの進行が報告されています。また、複数の国・地域で市中感染や集団内で多くの者が感染したクラスター事例も報告されており、さらなる感染の拡大が懸念されています。

【感染・伝播性】

 オミクロン株の流行が先んじられた南アフリカでは、高い実効再生産数(ある時点において一人の感染者が全感染期間に感染させる人数の平均値)が報告され、イングランドでは倍加速度の短縮や感染者数の増加率が報告されています。海外から報告された集団発生事例での高い発病率や、デルタ株よりも多くの家庭内二次感染例が報告されたことから伝播性の増加を示唆する所見が得られています。
 また、日本国内の疫学調査の暫定的な結果からも、これまでの従来型やデルタ型と比較して、感染・伝播性はやや高い可能性がありますが、さらなる調査が必要です。

【重症度】

 国内で経過観察されたオミクロン株感染例の初期の事例では、94%が無症状か軽症で経過しました。南アフリカや英国からの報告でも、デルタ株より重症化しにくいことが示唆されるとあります。ただし、これらの報告では若年感染者が多いこと、自然感染やワクチン接種による免疫の影響が考慮されていないこと、重症化や死亡などの結果を確認するためには時間を要することなどから、十分な検討がすんでおらず、さらに知見を集積する必要があります。

【ワクチン、抗体治療薬】

 ワクチンで誘導される抗体の試験管内での評価や疫学的評価からは、2回のワクチン接種の発症予防効果はデルタ株より、オミクロン株で低い可能性が示されています。3回接種(ブースター接種)ではオミクロン株の発症予防効果は高いことが示唆されていますが、中長期的な効果は不明です。
 また、モノクローナル抗体と呼ばれる人工的に作製した抗体からなる薬も、試験管内での評価では、オミクロン株の分離ウイルスに対する中和抗体が著しく低下している可能性があるという報告もあります。
 重症化予防に関しては十分にまだ評価が行われていませんが、過去の感染例やワクチン接種は重症化リスクを低下させるという報告がありますが、再感染率はデルタ株より高いとの報告もあります。

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 次回も新型コロナウイルスについてお話します。

月号より