【復興の道標・不条理との闘い】放射線教育...何教える 機会のなさがいじめに

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指導資料を手に話す阿部校長。「放射線教育はコミュニケーション力の育成」と訴える

 三春町に仮設校舎を置く富岡一中校長の阿部洋己(52)は、本県から他県に避難した中学生の作文を見て「はっ」とした。「福島の支援物資はいらない」。そこには熊本地震での話がつづられていた。

 富岡一中には県外避難を経験した生徒が多く通う。避難者へのいじめ問題では、生徒のことが気になった。担任がそれとなく聞いた。いじめに至らないまでも、避難先での何げない言葉で嫌な思いをしたことが「ある」と答えた生徒が大半を占めた。

 「他県では、知識がないゆえの思い込みがある。『福島は何となく危ない』と内面的に感じていたものが、ふとした瞬間、口に出る。時間の経過は問題ではなく、偏見を持つ人を責めるだけでは解決しない」

 阿部は2012(平成24)年から3年間、県教委で放射線教育を担当した。放射線、震災や原子力災害を知る、復興の取り組みを知る―。指導資料を作り県内の小中学校に配布した。

 「学区の線量は低く、保護者の関心も高くない。どこまで指導すればいい?」。県教委に在籍していた時、東京電力福島第1原発から離れた地域の校長から質問された。何を教えるべきか。放射線の性質か、利活用の方法か、原子力災害のリスクか―。阿部は最近、放射線教育は突き詰めれば「コミュニケーション力の育成」と思うようになった。「他者に説明し、伝える力があれば、今ある問題の深刻さは薄れる」。阿部は教育の可能性を信じ、訴える。「子どもは本県の発信力だ。即効性はないが、風評払(ふっ)拭(しょく)の基盤になる」

 相馬市教委は12年度から、市内の小中学校で放射線の授業を行っている。阿部が作成した指導資料を活用し、有識者の協力を得て市独自の教材も発行した。教材は学年ごとに内容が違い、例えば4年生では外部・内部被ばくの違いや身を守る方法を学ぶ。中村一小4年の草野琉之介(りゅうのすけ)は「放射線について勉強し、福島県に住んでいても大丈夫だと分かった」と話す。

 市教委の担当者は「子どもたちが自信を持って生きるためにも、ノウハウを積み上げるのが大切」と力説する。ただ、放射線教育の環境づくりに注力してきたからこそ気になることがある。「県外では放射線教育は行われていない。教育機会のなさが(原発事故による)いじめにつながっている可能性がある」

 正しい放射線の知識を普及しようと、南相馬市を拠点に活動している「ベテランママの会」代表の番場さち子(56)もそうした危機感を抱く一人だ。「原発事故のいじめが起きるのは、理解がないから」と言う。

 これまで、放射線の基礎知識をまとめた小冊子を英語版も含め約5万5000冊を発行してきた。現在は放射線の知識に関する試験問題を作成中だ。3段階で、検定試験と同じく正答率に合わせて合格証も贈る計画だ。

 「子どもの頃に正しい知識を身に付ければ思想の根底に残る。そうした取り組みがなければ、いじめの芽は摘めない」。番場は相馬地方から始めて県内全域、将来的には全国規模でこのテストの実施を思い描く。「本当は民間ではなく、国がやるべきことだけどね」(文中敬称略)

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