【 三春・城下町の今昔(下) 】 次世代育む土地と人 桜の町見守る
三春町の中心市街地は盆地のような形をしている。小高い場所に城跡や神社仏閣があり、商店や住宅が並ぶ盆地の「底」から見上げると、見守られているような印象を受ける。所々に町の国指定天然記念物・三春滝桜の「子孫」とされる桜の木が植えられ、春には町全体が桜色に包まれる。街並みは景観条例で整備され、城下町らしい統一感が広がる。
田村市方面から町中心部に入る四ツ角の一角に、割烹(かっぽう)「八文字屋」がある。女将(おかみ)の橋本紀子さん(74)は会津若松市出身。同市の鶴城小で学び、父親の転勤で旧船引町に移った。23歳で結婚し、割烹で働くようになった。「幼い頃は(鶴ケ城の)お堀で魚を取って怒られた。今は三春のお城山を毎日見ている」と橋本さん。城が結んだ不思議な縁に思いを巡らす。
八文字屋は江戸時代、三春藩に移ってきた茨城県の商人が始めた店。最初は造り酒屋。その後は旅館、結婚式場と変わり、今の割烹に至る。橋本さんは「八文字屋の名前を残しながら商売を続けてきた」と振り返る。
◆厳しく温かく
四ツ角周辺では毎夏、三春盆踊りが繰り広げられる。約300年の歴史を誇る行事だ。かつては字単位で行われたが、今では町全体の祭りとなった。古くから続くものにも新しさはある。橋本さんは「三春は自由民権発祥の地。城下町でありながら保守的ではない。時代の流れに最初に取り組んでいこうという意識が強い」と力を込める。伝統と変化が混ざり合うからこそ、城下町の「今昔物語」がつづられていくのかもしれない。
田村高近くの食料品店「水戸屋」は今どきにしては珍しく駄菓子を置いている。店主の鴫原ジンさん(83)は「結構売れるの」とさらりと言う。水戸屋の歴史を聞いているうちに、驚いたことがある。鴫原さんも会津若松市出身。1日で「三春に嫁いだ会津生まれの女性」2人に会うとは思っていなかった。
鴫原さんは20年以上前から交通安全に汗を流している。朝は旗を持ち、児童を見守る。横断歩道を渡らない高校生を注意する。「怖いおばちゃんと思われているかも」と本人は笑う。店に黙って入る子どもにも「やり直し」と一喝。一方、東日本大震災時には高校生が店の片付けを手伝ってくれた。「立派」と感謝する。
鴫原さんは「三春は伝統あるまち。子どもたちには相手に優しく、自分に厳しく育ってほしい」と願う。自由民権運動家の河野広中を輩出し、明治時代には私塾などで多くの人材を育成した三春。次世代に向ける地域のまなざしは昔も今も、鋭いながらも温かい。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【逸話が基になった名物】八文字屋の名物は「油揚ほうろく焼」。豆をいる用具「ほうろく」で油揚げを調理し、お殿様に献上したところ喜ばれたという郷土史の逸話が基になっている。八文字屋の「ほうろく亭」で提供されており、三角の油揚げに甘みそを塗って食べる。
〔写真〕油揚ほうろく焼を提供している「ほうろく亭」
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