責められ「死にたい」 残された家族にも悔い

 
責められ「死にたい」 残された家族にも悔い

なりすまし詐欺の被害者は、被害後に家族らに責められ、孤立を招くケースも見られる(写真と記事は関係ありません)

 「被害が家族に知られたら、責められる」。県内で相次ぐなりすまし詐欺や、詐欺を狙った不審電話を受けた被害者が一様に口にするのは、家族に被害を知られることへの恐怖感や、別人の声を息子の声と信じてしまったことに対する後ろめたさだ。全国では、こうした詐欺被害の後、被害者が自殺に至るケースもある。

 ■自殺相談相次ぐ

 「なけなしのお金を取られてしまった。子どもや孫からは、ばかにされ、見放されてしまった。孫のためを思ったことなのに責められ、怒りで夜も眠れない。死にたい」。千葉県成田市の寺院の一室にあるNPO法人「自殺防止ネットワーク風」には時折、なりすまし詐欺被害を受けた高齢者から、こうした相談の電話が寄せられる。昨年は約30件、今年も既に約20件のなりすまし詐欺に端を発した自殺の相談があった。

 孫を名乗る男からの「プリンターを買いたい」との電話を受け、20万円をだまし取られたという73歳の男性が同NPOに電話をかけてきたのは6月中旬。1カ月前には妻に先立たれたばかり。明らかに気落ちしていた。「ばあさんの所に行きたいな。でも、ばあさんにもばかにされるかな」。電話口で篠原鋭一理事長(70)は「孫を思う気持ちがそうさせたんでしょ。犯人は悪いことをして稼いだお金で生活している。きっと罰が当たると考えよう」と必死でなだめた。

 一方で、詐欺被害に遭った家族が自殺し、被害を責めた家族が電話してくることもある。友人を名乗る男の電話を信じて現金280万円をだまし取られ、自殺した男性=当時(41)=の妻(37)は「『なぜ友人ではないと気付かなかったのか』と責め続けてしまった」と悔いを告白した。同NPOに電話してきた時点でこの妻は、手首を切った状態だった。「3歳の子どもを殺して自分も死ぬ」と話した。「親として、それはどうなの。旦那さんは喜ばない。子どもを立派に育て上げることが償いになる」と思いとどまらせた。

 ■身近な人には言えない  

 「詐欺は、お金をだまし取るだけでなく、その人の孤立を招き、最後には人の生き死にを左右する。犯人はそこまで考えていないだろうけどね」と篠原理事長。「被害に遭ったことは実は身近な人には恥ずかしくて言えない。だからこそ相談窓口をきちんと設けて、全てを受け入れてあげなければいけない。被害者は誰かに話がしたいはず。話すことで気持ちが落ち着く人もいる。被害者が『実は』と話し出せるような環境をいかにつくり上げていけるかが課題だ」