【エフレイ設立1年・上】トップ研究者確保奔走「24年度中に15人」

 
エフレイが仮事務所を置く地域の交流施設。約80人の職員が研究開発や広域連携の調整などに当たる=浪江町

 「福島を一度見に来てほしい。他ではできない挑戦ができる」

 福島国際研究教育機構(エフレイ)の理事長山崎光悦は昨年10月、米カリフォルニア州で現地のロボット技術者に訴えかけた。東京電力福島第1原発事故からの復興に向けた「中核拠点」を目指すエフレイは今、夢を追う仲間を何より欲している。

 昨夏以降、山崎は欧米に少なくとも3度の出張を重ねた。組織の人脈をフル活用して事前に目星を付け、中には前向きな反応を示した研究者もいるという。

 エフレイは2029年度までの第1期の重点を「基盤づくり」に置く。ノーベル賞候補に挙がる著名研究者を分野長に据えるなど、基盤は構築されてきた一方、自前の研究者はまだ2人。国内外のトップ人材をどれだけ多く確保できるかが喫緊の課題だ。

 研究開発はエフレイの最重要使命。本施設を持たない当面は外部委託で進めざるを得ない。初年度は27の研究テーマを公募し、このうち19テーマで委託先を決めた。稲作の完全自動化など先端技術を含むが、年度末の「駆け込み契約」も目立ち、研究予算126億円の多くは消化できず新年度に繰り越す見込みだ。

 調整に時間を要した背景には、大学や企業からの応募の多くがエフレイの期待水準に達しなかったことがある。「個人研究に近い内容」(関係者)もあり、審査担当者の頭を悩ませた。

 直接雇用で目標共有

 これに対し、エフレイが直接雇用する研究代表者(PI)なら意思疎通しやすく、より長期の目標を共有できる。「世界」を見据え、公募では年間最高3500万円の固定給に業績給を上乗せする異例の待遇を用意した。過去3年、国立大教授の最高年収でも約2300万円とされる。

 エフレイは第1期にPIを50人を確保し、研究を外部委託から順次切り替える方針。2人の研究者のうちPIは1人だが、山崎は取材に対し、24年度中に「15人」まで増やす考えを明かした。計画の10人を上回る。

 海外から浪江に移るハードルは高いように映るが、「福島に貢献したい研究者は意外と多い」(分野長の一人)という。近く採用し、公表が始まる見通しになっている。

 PIはそれぞれ研究者を探すなどして10人程度のチームを結成する想定で、29年度末時点の「エフレイ研究者」は計500人。多様性の観点から、女性と外国人は150人ずつを目指す。家族を含めれば、6年後の町の雰囲気は一変する可能性がある。

 「初年度は60点」評価

 「初年度は60点。遅れを取り戻し、今後は計画を前倒しできるように努めたい」。山崎はこう自己評価し、続けた。「研究体制をいかに整備できるか。いよいよ挑戦を始めていくしかない」

 福島国際研究教育機構 福島復興再生特別措置法に基づき昨年4月、国が浪江町に設置した研究教育機関。福島、研究、教育、革新を英語で並べた頭文字「F―REI」が略称。主に研究開発と産業化、人材育成に取り組む。重点研究分野はロボットや農林水産、エネルギーなど。第1期7年間の事業規模は1000億円。本施設は2030年度までに国が整備する。

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 エフレイは4月1日、設立から1年を迎える。節目を前に発表された公式マークは、小さな鳥が東北6県を巣に世界へ羽ばたこうとする姿を表現した。エフレイ幹部や周辺の証言から展望と課題を探る。