【エフレイ設立1年・中】研究成果発揮し、地域経済に貢献

 
市町村座談会で進出企業の説明を聞くエフレイの山崎理事長(中央)。把握した地域課題は研究開発などに反映させる見通しだ=1月30日、双葉町

 「楢葉町の医療機器メーカーが破産」―。3月26日の信用調査会社の発表は関係者に衝撃を走らせた。

 このメーカーは福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の補助を受け、昨年10月の同構想の成果発表会では期待の一社として登壇した。突然の報に、県担当者は「順調とばかり思っていた」と驚きを隠さなかった。

 国がイノベ構想を打ち出して10年。補助金を活用して浜通りなど15市町村に400社以上が進出したが、設備投資の負担などから経営難に陥る企業は増えつつある。双葉郡8町村の域内総生産(GDP、建設業除く)と製造品出荷額は、共に東日本大震災前の3割未満にとどまる現状もある。

 こうしたイノベ構想を発展させる役割が、福島国際研究教育機構(エフレイ)には求められる。福島民友新聞社の避難12市町村アンケートでは全自治体がエフレイに期待を寄せ、自由記述で「設置効果の波及」を望む回答が目立った。

 まずは地域を知ろうと、エフレイは23年度に15市町村で座談会を開き、進出企業や行政関係者と膝詰めで意見を交わした。理事長の山崎光悦は「浜通りの課題を吸い上げ、理解できた」と手応えを語る。関係者が一堂に会した1月の協議会では、主軸の研究開発だけでなく、まちづくりや教育といった地域課題の解決に臨む姿勢を明示してみせた。

 地域経済に詳しいとうほう地域総合研究所事務局長の諸根浩文は「エフレイは県内の既存研究施設に横串を刺す司令塔でもある。地域の将来に何が必要か見極め、具体的活動に落とし込むことが重要だ」と指摘。「研究開発などで成果を発揮すれば、地域経済に大きな効果をもたらす可能性がある」と展望した。

 海外との協定を準備

 エフレイは初年度、主に県内の大学や自治体、銀行などと9件の連携協定を結んだ。国際連携を担う執行役の大和田祐二(南相馬市出身)は、米国の研究機関と包括連携協定の準備を進めていると明かし「研究者の招聘(しょうへい)につなげたい。他にも海外で複数の連携を模索中だ」と語った。

 広域の兆し 見え始め

 周辺自治体も恩恵を待つだけではなく、南相馬市や双葉町は国際教育の場を設ける検討に入った。浪江町は「国際研究学園都市構想」を掲げ、立地町として全県に効果を波及させる意思を明確にするなど、広域連携の兆しが見え始めている。

 山崎は「研究成果を社会課題解決に結び付けることが産業を生み、地域に企業と人を集める。まずは社会にインパクト(影響)を与える着実な成果を出す」と言葉に力を込める。

 設置効果波及の鍵を握る研究開発の行方を、全ての関係者が注視している。

 福島・イノベーション・コースト構想 東京電力福島第1原発事故の被害を受けた浜通りを中心に、新たな産業基盤構築を目指す国家プロジェクト。廃炉やロボット、エネルギーなど6テーマに重点を置き、研究施設整備や企業立地を進めた。エフレイはこうした既存施設の取り組みに横串を刺す司令塔機能を持つ。