脳卒中について。その2

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。今回から公立藤田総合病院(国見町)副院長の佐藤昌宏先生が担当します。
脳卒中について。その2
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

     

 前回、脳卒中の約7割以上を占める脳梗塞の分類についてお話しましたが、今回は脳梗塞の治療についてです。脳梗塞は大きく分けてアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ脳梗塞に分類されますが、治療は主に薬物療法になります。アテローム血栓性脳梗塞とラクナ脳梗塞の原因については血液内の血小板が大きく関与しています。

 血小板は何らかの原因で出血した際に、止血する役目を持っています。脳梗塞の際には通常血小板の機能が亢進して血液が固まりやすくなっており、血小板の凝集(集まり、固まること)機能が更新することで症状が悪化したり、再発したりすることが多いので、急性期にも慢性期にも血小板凝集を抑える薬剤(抗血小板剤)を投与します。また、心原性脳梗塞の場合には心臓内血栓を抑えるための抗凝固剤を投与します。

 抗凝固剤は以前、納豆が食べられない薬として有名なワルファリンが使用されていましたが、最近、納豆も食べられ、その他の食べ物や薬物との相互作用や出血の副作用が少ない新規経口抗凝固剤(NOAC)または直接経口抗凝固剤(DOAC)が利用可能となりました。脳梗塞はとても再発しやすい病気ですので、これらの薬は一生内服しなければなりません。もちろん脳梗塞の危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症などがある場合には、その治療も非常に大切になります。喫煙者は禁煙しなければなりません。

1 超急性期治療
 その他、特に超急多性期の治療ではこれらの内科的治療に加え、血栓溶解療法が施行されることがあります。これは脳梗塞の症状としての片側の運動麻痺や意識障害、言語障害などの重い症状が出現した発症時間から4時間半以内であれば、遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA、アルテプラーゼ)という薬を点滴することで、脳の太い動脈に閉塞した血栓を溶かして脳血流を再開させる方法です。

 もちろん治療開始時間が早ければ早いほど脳が完全に梗塞に陥る前に血流が再開でき、良好な転帰が期待できますので、もし発症したらすぐに救急車を要請して、脳神経外科や脳神経内科がある病院へ搬送してもらうことが大切です。最近ではt-PAなどの内科的薬物療法に追加して、発症後6時間以内であればステントリトリーバーという器具などを用いて機械的血栓回収術が行われるようになりました(図1)。

 つまり、マイクロカテーテルという細いカテーテルを大腿動脈から閉塞した動脈まで挿入し、まだ詰まっている血栓を取り除く一種の手術治療です。この治療は血管の中で行うため血管内治療と言われています。また、t-PAが無効だったり使用できなかったりした際には、発症後8時間以内であれば機械的血栓回収術を行うことを考慮してもよいと「脳卒中治療ガイドライン2015」に収載されました。

 これももちろん、発症後できるだけ早期に治療開始すれば神経症状の回復が期待されますので、発症したらすぐに病院へ搬送し、病院でも可能な限り迅速に検査を行い、治療を開始しなければなりません。これらの治療を行うことで、運動麻痺や意識障害が劇的に回復し、救命できることもあります。心筋梗塞も同じですが、脳梗塞は時間との闘いであり治療開始の時間、そして血流再開通までの時間が予後を左右するといっても過言ではありません。症状が出たら、決して様子を見るべきではなく、すぐに病院を受診することをお勧めいたします。

3 慢性期の外科治療
 脳梗塞の慢性期には外科的治療を行うことがあります。頸部の内頸動脈は動脈硬化が起きやすい場所で、狭窄が強くなると脳梗塞の原因となる可能性が増加してきます。同部の検査治療は脳梗塞発症の予防や治療になり得ます。近年、欧米化の進む食生活や高齢化に伴い、高血圧症や糖尿病、高脂血症などのリスク要因が増加し、その有病者が急速に増えつつあります。また、最近では診断機器の進歩と普及により、無症状の段階で見つかることも多くなっており、本疾患を有する症例数は増加傾向にあります。 病変の発見は、症候がみられた後にCT、MRIや血管撮影によりなされることも多いですが、リスク要因をお持ちの患者さんに頸動脈エコー検査を行うことでスクリーニングし発見されることも多く、患者さんの中には無症候にもかかわらず、閉塞寸前で発見された方もおられます。この頸部内頸動脈狭窄症に対しての外科治療は、内頸動脈内膜剥離術(CEA)とステント留置術(CAS)があります(図2、3)。

 CEAの有効性は、症候性(何らかの症状が出た人)の狭窄の場合、70~99%の狭窄率では手術により脳梗塞の危険率は26.0%→9.0%に減少し、絶対適応と言われています。50~69%の狭窄率では治療により22.2%→15.7%に減少するため相対適応、50%以下の狭窄率では手術適応無し(18.7%→14.9%)と言われています。無症候性(症状の出ていない人)の場合は、60%以上の狭窄率の人では手術により脳卒中発生の危険率は10.8%→4.8%に減少するとの結果が出ています。

 さらに2008年4月にはCASが保険認可となり、治療選択の幅が広がっています。これは狭窄している部位にステントと呼ばれる特殊な金属を留置させて狭窄部位を拡張させる治療です。CEAは全身麻酔が必要ですが、CASは局所麻酔で治療可能ですので、全身麻酔ができない患者さんには朗報です。詳しくは脳神経外科医にご相談ください。

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 次回は出血性脳卒中についてです。

月号より