脳卒中について。その19

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その19
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。今回と次回は糖尿病について詳しくお話をします。

 1.糖尿病とは

 糖になる病気です。1型糖尿病と2型糖尿病に分けられます。1型糖尿病はインスリンが作られる膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなるものです。糖尿病の患者さんのうち、1型糖尿病は10人に1人もいません。若い方の糖尿病では1型糖尿病が多いですが、年齢に関係なく発症が見られます。環境因子にウイルス感染などが加わり、何かしらの原因で過剰な免疫反応が起こり、自分の膵臓β細胞を攻撃してしまい、インスリン分泌ができなくなるものです。
 2型糖尿病はインスリン分泌低下やインスリン抵抗性などの遺伝的因子に加えて、食べ過ぎや運動不足、それに伴う肥満、加齢などが原因で、自分のインスリンを出す力を酷使して血糖を調節する力が弱くなり、血糖が上がって発症してしまうものです。生活習慣に大きく関係するのが2型糖尿病です。2型糖尿病は40歳以上、太りすぎの方、家族に糖尿病の方がいる方、極度に運動不足の方に起こりやすいと言われています。高血糖が持続すると全身の血管の老化、つまり動脈硬化のスピードがとても速くなります。
 特にメタボリックシンドロームの方や喫煙している方は動脈硬化がより早く、強くなります。その結果、脳卒中、心筋梗塞、慢性動脈閉塞、腎不全から血液透析、失明といった健康寿命を著しく損なう合併症を引き起こしますので糖尿病は怖い病気です。しかも、音もなくゆっくりと病状は進行して、ある日突然、急激に種々の症状を呈します。

 2.脳卒中と糖尿病

 以前から、糖尿病と脳卒中の関連性についての指摘がありました。近年、日本人を対象とした調査・研究が進展した結果、脳卒中のなかでも特に脳梗塞のリスクが高いことが判明しました。血糖値が正常な人の脳梗塞の発症リスクを1とした場合、糖尿病の人のリスクは男性で2・22、女性では3・63にもなります。脳内出血やくも膜下出血については、男女とも糖尿病との関連は認められませんでした。近年では認知症との関連も明らかになってきました。実際、世界では糖尿病が原因で10秒に1人の人が亡くなっています。糖尿病自体はほとんど症状がないのに、治療の重要性が強調されるのはこのためです。厚生労働省研究班の調査によると「糖尿病があると、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳梗塞、いずれのタイプの脳梗塞も発症リスクが高くなる」という結果が出ました。

3.糖尿病の症状

  高血糖自体には症状は出ませんが、長く持続すると口渇(喉が渇く)、多飲、多尿、倦怠感、体重減少などの症状が出てきます。

4.糖尿病の診断

  血液検査で血糖値とグリコヘモグロビン(HbA1c)値を測定します。HbA1cは過去1-2か月前の血糖値を反映するもので、当日の食事や運動などの短期間の血糖値の影響は受けません。診断は症状の有無、血糖値、HbA1c値を総合的にみて診断します。空腹時血糖の正常値は70~109㎎/㎗ですが、早朝空腹時血糖が126以上、または随時血糖値や75Gブドウ糖負荷試験2時間後血糖が200以上の方、あるいはHbA1c値が6・5%以上の場合は糖尿病型となります。逆に、早朝空腹時血糖が110未満、あるいは75Gブドウ糖負荷試験2時間後血糖が140未満の方は正常型です。その間の方は境界型となります(図1)。血糖値とHbA1c値がともに糖尿病型であれば初回の検査で糖尿病の診断がつきます。初回の血糖値のみが糖尿病型であり、典型的な上記症状が存在する場合や、眼に典型的な糖尿病性網膜症が存在すれば糖尿病の診断がつきます。もし、初回のHbA1cのみが糖尿病型であれば、別の日、なるべく1か月以内に血糖値とHbA1c値の再検査を行い、その値により図2にあるように分類されます。

 5.高血糖の悪循環

 患者さんの多い2型糖尿病は、特に高カロリー食、高脂肪食などの過食や運動不足といった生活習慣の乱れによって筋肉や肝臓に脂肪が蓄積します。するとインスリンの働きが低下し、ブドウ糖の利用が高まらず、血液中にブドウ糖が余ってきて血糖値が上昇し発症します。発症早期には血糖値が高いことに反応し、膵臓はインスリンを多く分泌しようと努力しますが、この状況が持続すると、やがて疲労困ぱいしインスリンを分泌できなくなり、さらなる高血糖を引き起こします。
 このように高血糖がさらなる高血糖を呼ぶという悪循環は「高血糖による毒性」と言われており、高血糖をそのままにしていると、ますます糖尿病が悪化していきます。そして、気がつかない間に糖尿病が進行し、最終的にさまざまな合併症を引き起こします。糖尿病の合併症を防ぐためにも、血糖値を低下させ糖毒性を取り除く必要があります。

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 次回も糖尿病の続きをお話します。

月号より