【公立夜間中学開校】実った15年来の悲願「弟が導いてくれた」

 
木幡市長が市議会で公立夜間中学の設置を表明し、「涙が出るような気持ちだった」と振り返る大谷さん

 県内に公立夜間中学をつくろうと、2010年から活動してきた福島市の大谷一代さん(60)に吉報が届いたのは21年だった。木幡浩市長が市議会で設置を表明し、「涙が出るような気持ちだった」と大谷さん。16日に県内初の公立夜間中学「福島四中天神スクール」(福島市)が開校し、15年来の悲願が成就する。

 帰らぬ人に

 大谷さんの弟は中学2年から不登校だった。大人になって勉強がしたいと思い、通える予備校などを探したが見つからなかった。10年5月、弟は心不全で亡くなった。

 それから3カ月後、大谷さんは元教員らの協力を受け「福島に公立夜間中学をつくる会」を結成。11年に県内初となる民間の自主夜間中学を開校し、学び直したい人や戦争で義務教育を受けられなかった人に無料で学習支援を行ってきた。

 天神スクールの開校を控え、「弟が導いてくれたのだと思う。公立夜間中学は自主夜間中学より時間数が多く、しっかり勉強できる。1人1冊教科書も準備され、きめ細かな教育が期待できる」と感慨深げに語る。

 木幡市長の表明後、市は約2年かけて準備を進めてきた。「まず夜間中学とは何かを勉強することから始めた。生徒募集の方法など考えることがたくさんあった」と市担当者。市民への説明会などを重ね、入学希望者への面接で何を学びたいかを聞き取り、一人一人に応じた指導を準備してきた。生徒が一歩を踏み出し、学んでいく姿を見られる喜びを感じつつ、市担当者は「さまざまな事情を持った人が集まるので、(17人の新入生に応じた)17通りの指導が必要。教員との相談を密にして柔軟に対応していかなければいけない」と気を引き締める。

 開校への期待が高まる中、大谷さんは天神スクールの展望も語る。生徒の経済的な状況に応じて通学費を補助したり、「給食」のように、おにぎりやパンなどを支給したりする就学援助策の必要性を挙げ「福島市に提案していきたい」とする。

 4~5校へ

 大谷さんは、福島市を契機に、別の市町村でも公立夜間中学設置の機運が高まることを願っているが、現時点で具体的な動きは見えない。「通いたいけど、近くに夜間中学がない人は諦めないでほしい。望めば勉強できる。県内で夜間中学が増える弾みになればうれしい」。大谷さんは、県内で公立夜間中学が4~5校になることを目指し、これからも活動する。弟の思いを胸に、会の名前はずっと「つくる会」のままで。

 夜間中学がある都道府県

 北海道、宮城県、茨城県、埼玉県、千葉県(3校)、東京都(8校)、神奈川県(3校)、静岡県、京都府、大阪府(11校)、兵庫県(4校)、奈良県(3校)、広島県(2校)、徳島県、香川県、高知県、福岡県の17都道府県に44校(2023年4月時点)

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 この連載は高橋夏実が担当しました。