脳卒中について。その22

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その22
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。「平成29年国民健康・栄養調査」の結果において、国内の糖尿病の有病者か予備群(糖尿病が強く疑われる者)の割合は男性18・1%、女性10・5%で、男女合わせて約1800万人にのぼると推計されます。現在、過剰な食事摂取・運動不足・ストレスなどの生活習慣を主因として急増している2型糖尿病が約9割を占めています。
 糖尿病の治療には、食事療法・運動療法・薬物療法の3本柱があります。今回は運動療法についてお話します。

1.なぜ、運動は効果があるの?

 なぜ、運動療法は糖尿病に効果があるのでしょうか。第1に、運動することでブドウ糖が消費されて、筋肉細胞内に糖が取り込まれやすくなり、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促進されて、血中のブドウ糖濃度が低下することにあります。第2は、運動療法により低下しているインスリンの働きが高まります。第3は、エネルギーの摂取と消費のバランスが改善し、減量効果 ・肥満の防止になります。さらに副次的には、高血圧、脂質異常症の改善、加齢や運動不足による筋肉の衰えや萎縮(いわゆるサルコペニア、フレイル)予防、骨粗鬆症の予防にも効果が出ます。また、骨や関節が丈夫になったり、末梢血管が強くなったりして心臓や肺の機能も高まり、それらが筋力や体力増強につながります。さらに認知症予防、がん予防、うつ予防、そして運動後の爽快感、活動気分向上、ストレス発散効果もあります。良いことばかりですね。

2.糖尿病を改善するための運動

 運動療法の進め方として、まずメディカルチェックを受けて運動療法の可否を確認した後に、個人の基礎体力・年齢・体重・健康状態などを踏まえて運動量を設定しましょう。最初は歩行時間を増やすなど身体活動量を増加させることから始め、個人の好みに合った運動を取り入れるなど段階的に運動を加え、安全かつ運動の楽しさを実感できるように工夫していくことが、運動を継続するために重要なポイントとなります(図1)
 運動療法の運動種目としては、有酸素運動とレジスタンス運動があります。また、有酸素運動とレジスタンス運動の併用は、それぞれの運動単独よりも効果的に糖尿病を改善させることも報告されています。
 有酸素運動(図2):ウオーキング(速歩)・ジョギング・水泳・縄跳びなどのできるだけ大きな筋を使用する運動です。内臓の脂肪細胞が小さくなることで肥満を改善し、脂肪組織から産生される、インスリンの働きを妨害する物質の分泌が少なくなります。このため筋肉や肝臓の糖の処理能力が改善し、血糖値が安定します。運動の頻度はできれば毎日、少なくとも週に3~5回、運動強度は中等度(ややきつい)の全身を使った運動です。運動時間は各20~60分間行い、1週間に計150分以上が一般的に勧められています。ややきつい運動とは、運動時心拍数が50歳未満で100~120拍/分、50歳以降で100拍/分以内。ただし、不整脈などで心拍数を指標にできない場合、自覚的運動強度として「ややきつい」または「楽である」を目安とします。

 レジスタンス運動(図3):腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなどのおもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動です。レジスタンス運動は、筋量の増加が糖の処理能力を改善させるため、血糖コントロールに有効です。8~10種目のレジスタンス運動を1種目につき10~15回を1セットとして、1~3セット繰り返すことが勧められています。ただし、虚血性心疾患などの合併症患者には高強度のレジスタンス運動の実施は勧められません。また、高齢者においても急激な頻度や回数での実施は勧められません。慣れていない場合にはレジスタンス運動の種目・セット数などを少ない回数から始めて、徐々に増やしたほうが長続きします。
 プールでの水中運動は、有酸素運動およびレジスタンス運動の両方が行える運動種目で膝への負担が少なく、肥満、糖尿病患者には安全かつ効果的な運動と言えます。
 歩行運動の場合、1回につき15~30分間、1日2回、1日の運動量として約1万歩、消費エネルギーとして160~240㌔㌍程度が適当であるとされています。
 運動を実施するタイミングは、生活の中で実施可能な時間であればいつ行ってもかまいませんが、特に食事の1~2時間後に行うと食後の高血糖状態が改善されます。運動を実施する上での注意点としては、運動の前後に5分間の準備・整理運動を行うこと。また逆に、インスリンや経口血糖降下薬で治療を行っている方の場合は、低血糖になりやすいことに注意する必要があるので、運動量の多い場合には補食を取る、あるいは運動前後のインスリン量を減らすなどの注意が必要です。定期的に長く続けられることがヒケツですので、自然の中で風景を堪能しながらのウオーキングや楽しく続けられるスポーツなど、自分に合った運動の方法を探してみましょう。仕事が忙しくてなかなかまとまった時間が取れない人は、「運動なんてできない」と思っていませんか。たとえば「通勤の駅を1つ手前で降りて歩いてみる」「エレベーター・エスカレーターをできるだけ使わずに階段を利用する」なども1つの運動の方法です。日常生活の中のちょっとした工夫で運動が可能です。

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 次回は糖尿病の薬物療法についてお話します。
 ※引用文献:糖尿病治療ガイドライン2018・2019

月号より