脳卒中について。その30

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その30
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

   

 脳卒中のリスクの2番目は糖尿病です。今回は糖尿病の合併症として怖い心臓病についてお話します。
 糖尿病患者は糖尿病でない人に比べると、心血管疾患の発症リスクは高くなります。さらに、糖尿病患者が心血管疾患で死亡するリスクは糖尿病でない人の1.8倍から2.5倍と言われています。また、日本糖尿病学会の糖尿病の死因に関する委員会の調査によると、日本では糖尿病患者の9人に1人が心血管疾患で亡くなっているそうです。

 Ⅰ.糖尿病は動脈硬化を加速させて、心臓の太い血管(冠動脈)を詰まりやすくする(図1

 1.狭心症

 心臓に血液を送っている太い血管(冠動脈)の内側が狭くなって、血液が充分に送られなくなるために心臓が酸素不足に陥り、胸が痛くなったり、動悸が起こったりします。

 2.心筋梗塞

 冠動脈の内側が完全に詰まり、心臓に血液が届かなくなった状態です。処置が遅れるとその先の血管に血液が流れず、心臓を動かしている筋肉が死んでしまいます。心筋梗塞を発症した人の半分以上に糖尿病を合併していたとの報告もあり、両者は深い関係にあります。通常は締め付けられるような激しい痛みが特徴ですが、糖尿病になると、神経障害のため痛みを感じにくくなり、心筋梗塞を起こしても、胸の痛みを感じない(無痛性心筋梗塞)ことがあるので注意が必要です。また、血管の狭窄や閉塞の場所が複数ある多枝病変だったり、血管全体がびまん性に細くなったりする特徴もあります。さらには血管の壁にカルシウムが沈着して、血管の弾力性を失って硬くなり、狭窄部位を拡張する治療を行っても再狭窄、再閉塞が起こることが多いなどの不利な特徴があります。そして、治療が遅れると致死的になりかねません。


 Ⅱ.糖尿病は心不全や心房細動などの発症も増加させる


 1.心不全


 心臓は、規則正しいリズムで全身に血液を送り出すポンプとして重要な働きをしています。心不全とは、心臓のポンプとしての働きが悪いため、疲れやすい、息切れ、むくみ、動悸が起こり、日常生活に制限が出たり、生命を縮めてしまったりする病態です。糖尿病がある人は、ない人に比べて男性で約2倍、女性では約4倍、心不全をきたしやすいとの報告もあります。
 また、糖尿病が自律神経やホルモンに影響したり、炎症を誘発したりするとされています。さらに、心臓を収縮させるATPというエネルギー源の産生低下をきたしたり、活性酸素という細胞には毒性を持った物質が増加したりして、心臓の細胞を傷つけます。

2.心房細動


 心臓の規則正しいリズムは、心臓内で作り出される電気信号でコントロールされていますが、電気信号が乱れ、心臓の拍動リズムが不規則になったものを不整脈といいます。心房細動は、心臓の4つに分かれた部屋のうち「心房」と呼ばれる上の2つの部屋で生じた異常な電気的興奮により起こる不整脈です。心房細動が生じると、心房がけいれんしたように不規則に震え、結果として、脈が不規則に速くなるのが特徴です。糖尿病は実は、心房細動発症リスク因子のひとつであり、糖尿病患者さんは特に心房細動になりやすいことが知られています。そして、糖尿病に加えて、肥満、高血圧、糖尿病性腎症などを併せ持っている人は、心房細動発症リスクはさらに高まります。スウェーデンの地域住民約1700例を対象とした研究では、心房細動の発症について以下のことが報告されています。糖尿病があると心房細動のリスクは2倍、高血圧が加わると3倍に上昇します(図2)。糖尿病によって心房細動の発症リスクがなぜ高まるのか、実のところ原因は未だ解明されていませんが、いくつかの仮説が提示されています。一説には、糖尿病の三大合併症の1つである末梢神経障害が原因と言われています。長期に続く高血糖状態が、心臓の働きをコントロールする自律神経を障害し、その結果、心臓の拍動にも異常が生じ、心房細動が発生するという考えです。その他にも、糖尿病による心筋症、心房筋の線維化、酸化ストレス、炎症などが関係することが指摘されています。また、心房細動が持続すると、先ほど述べた心不全をきたしやすくなります。
 さらに、心房細動があると心臓内で血の塊(血栓)ができやすくなり、それが拍動と一緒に心臓から飛び出して、脳血管を閉塞させる脳塞栓症を起こすことが知られています。血栓は比較的大きく、脳の太い動脈を閉塞させるため、重症になりやすい特徴があります。もちろん、血栓は脳ばかりでなく、全身の臓器に飛んでいく可能性があり、さらに生命の危機に陥りやすくなります。

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 次回は脳卒中の第3のリスク、今までお話した心房細動についてお話します。

12月号より