新型コロナウイルスワクチンについて。その6

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
新型コロナウイルスワクチンについて6
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

図1

 今回も新型コロナウイルスワクチンについて、厚生労働省と日本感染症学会からの記事を参考にしてお話します。
 これまでのファイザー社製と武田/モデルナ社製mRNAワクチンに加え、40歳以上の方か、前者2つのワクチンにアレルギーのある方、海外でアストラゼネカ社製ワクチンを1回打った方などでアストラゼネカ社製ウイルスベクターワクチンも接種できるようになりました。

1.職域接種

 ワクチン接種に関する地域の負担を軽減し、接種の加速化を図っていくため、企業や大学などで職域(学校等を含む)単位でワクチンの接種を行うものです。使用するワクチンは武田/モデルナ社製です。自治体による接種に影響を与えないよう、会場や医療従事者等は企業や大学等が自ら確保しなければなりません。実施形態は企業単独での実施に限らず、次のような形態での実施も可能です。
○中小企業が商工会議所等を通じて共同実施
○下請け企業、取引先を対象に含めて実施
○大学等が学生も対象に含める
 接種順位は職域接種対象者の中で優先順位を踏まえて、高齢者、基礎疾患を有する者を優先的に接種することになっています。接種費用は職域接種も予防接種法に基づき行われるものであり、接種にかかる費用は同法に基づき支給されます。そのため、通常、個人負担はありません。

 2.COVID-19罹患者へのワクチン接種

 COVID-19にすでに罹患した人に対してのワクチンは不要なのか、あるいは必要なのか。接種する場合には、その効果はどうなのでしょうか。
 ファイザー社製や武田/モデルナ社製mRNAワクチンを1回接種した場合、抗スパイクタンパク質抗体価が未罹患者より10~100倍程度上昇するという報告がみられており、罹患者への接種でさらに強い免疫が得られると考えられます。2回接種後も未罹患者に比べて約10倍高い抗体価が獲得されています(図1)。厚生労働省のQ&Aでは、「感染した方もワクチンを接種することができ、現時点では通常通り2回接種できる」としています。
 罹患後は新型コロナウイルスに対する一定の免疫が維持されますが、今後免疫を回避する変異株が蔓延した場合は、罹患者が再感染するリスクが増すことも考えられることから、回復後の適当な時期に接種することが奨められます。
 実際にわが国のCOVID-19罹患者6人の検討で、ファイザー社製のワクチン接種前の血清では数種類の変異株に対する中和活性(ウイルス感染を抑える抗体)の低下が見られましたが、1回接種後に従来株と同等の中和活性が獲得されたことが報告されています。
 また、罹患者に見られる中和抗体価は、COVID-19の重症度に応じて違いがあり、軽症者は重症者に比べて低いという報告があります。この研究では重症者も含めて15%の罹患者で中和抗体価が十分に上昇していませんでした。したがって、免疫を回避する変異株が出現しつつある現状では、症状の程度に関わらず回復後の早期の接種が望まれます。
 なお、すでに罹患した人では、未罹患者に比べて初回接種後の全身性の副反応の頻度が、ファイザー社製のワクチンで2.9倍、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチンで1.6倍高いという報告があり、接種にあたっては副反応の頻度が高まることについて説明が必要です。

3.新型コロナワクチンの異物混入への対応

 新型コロナワクチンについて、複数の接種会場から、未使用の状態での異物混入について報告されました。
 現時点では、ステンレスが検出されたロット及び混入リスクが否定できない他の2つのロットの合計3ロットについては、すでに使用見合わせ・自主回収が行われています。
 これらは、製造機器の組立て時の不具合により混入したステンレスの破片であったことがわかりました。ワクチンは使用前に目視で異物がないことを確認することとされていますが、このステンレスは心臓のペースメーカーやインプラントなどの医療機器にも使用されているもので、仮に体内に入ったとしても、アレルギーの誘因となる可能性は低いとされています。また、このステンレスが仮にワクチン薬液内に混入したとしても、溶け出すなどの恐れは少なく、ワクチン自体の有効性・安全性への影響は無いといわれています。
 また、一部の接種会場でバイアル(注射剤を入れるための容器)内等にゴム栓破片が確認され、接種会場の判断により一部ロットの接種を見合わせるといった対応が行われていますが、製造や採取の過程で蓋のゴムの一部が混入したものと考えられる場合は、接種の継続は可能です。

4.死亡例の報告について

○今年2月から7月30日までに、ファイザー社製ワクチンで912例、武田/モデルナ社製で7例の報告がありました。
○現時点では、ワクチンとの因果関係があると結論づけられた事例はなく、接種と疾患による死亡との因果関係が、今回までに統計的に認められた疾患もありませんでした。

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 次回も新型コロナウイルスワクチンについてお話します。

11月号より